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知らない世界ーミツルー

**** その日、一日あの言葉が頭から離れなかった ”いつか君から離れていく” もちろん、そんなことはないと思っている   俺とユウには他人なんかには分からない絆があるんだから 先生の言葉は、人を導くための単なる技法に過ぎないのに...何故あんな言葉にイライラしないといけないのか バカだな、動揺するなんて.... 動揺?この俺が? そんなはずはないと胸ポケットから煙草を取り出して咥える  ライターに指をかけるが、今日に限って空滑りしてうまく火がつかない それが余計イライラして、咥えたフィルターをつぶれるほど噛んでしまった これが家じゃなくて良かったと思う もしここが家の中ならば噛んでいたのは煙草ではなくて... いや、違うな、もしここが家の中だったとしたら、俺はイスに座って煙草を咥える 火の付かないライターにイライラしている俺の足元でユウはきっとなんだかよくわからない頭の中でふわふわと遊んでいるはず だからそれを蹴り上げて意識を俺に向けさせる きっと驚いたような顔で俺を見上げて、ビクビクしながら足にしがみ付いてくるはずなんだ 目尻には涙をためて、なんで蹴られたのかも分からないくせに、俺の機嫌を直そうとできる限りのことをしようとするだろう ユウにできることは限られているから 俺を見ること、受け入れること、離れないこと きっとその顔は可愛くて愛おしくてたまらないはず ライターに火がつくのと同じように俺にも火がついて、ぞくぞくしながらゆっくり煙を燻らせて... ユウはその煙が流れるのを大きな瞳で追うんだろうな 俺は半分も吸わずに咥えた煙草をユウの体に押し付けて赤い華を咲かせるんだろうな ユウの肌はとっても白くてきれいだから”ソレ”がよく映える 大事な大事な宝物だから 俺だけを見て、俺だけを感じてくれればいい 意思なんて持たなくていいんだ ユウならわかってくれるはずなんだから .....そう思うのに胸につかえるのはなんだろう 今こうしている間にユウは先生と二人でいる 俺以外の声を聞いて俺以外の目を見つめているのかと思うと頭がおかしくなりそうだ 早く帰りたい 帰って腕の中に閉じ込めたい 先生になんか絶対に渡さない 咥えた煙草を手の平で握り潰して道端に捨てて火がついているわけでもないのに執拗に踏みつける やはりイライラは収まらず、そのまま早足で家へと急いだ

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