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知らない世界
食事が終わるとユウはうとうとした目で彼の胸に寄りかかっている
安心したような、すべて彼にゆだねているようなそんな顔
彼はそんなユウを愛おしいように眺めて、さらさらの髪に指を巻き付けて遊んでいる
そこに流れる空気は穏やかで一見本当の家族のように見える
「どうしたの?今日は...」
椎名が彼に問いかける
今朝は不機嫌に出ていった彼
腕にまとわりついたユウをうっとおしそうに振り払い、振り向きもしなかった
ものすごい音を立てて扉を閉めて、ユウは閉ざされた扉の前で泣きそうな顔をしてたっけ
けれど帰ってきた彼は今朝とは全く違った態度をみせた
一つのモノしか与えないと決めていたユウに対して食べきれないほどの食事を用意して甘やかすようにそれを与えた
戸惑いながらもいろんなものを食べたユウは初めこそ困っていたようだったけれどそのうち輝くような目をさせて次から次へと運ばれる未知のモノに期待を膨らませていたようだった
あたりまえか...だってこの子は何も与えられてはいないのだから
「別に...意味なんかないよ」
椎名の疑問を本当は分かっているくせにまるで知らないふりでチラリとこちらを向く
ユウは椎名と彼の会話は分からないようでぼんやりとした目でどこかを眺めているだけ
あとほんの少しで眠ってしまいそうだ
「安心してるね..ユウくん」
「そう?いつもこんなかんじだよ」
そういいながらもどこか嬉しそうな顔でしきりにユウの髪を撫でる
「いつもそうしてあげればいいのに...喜ぶと思うよ?」
そうだ、これがいつもなら僕がここにいる必要なんかなくて、ユウくんが傷つくこともなくて彼が間違いを犯すこともないんだ
毎日聞こえるユウくんの泣き声も、彼の怒鳴り声も、それを止める自分もいらなくなる
「君が優しいとこんな顔するんだね...僕の前ではこんな顔しないよ」
「....」
「ユウくんは本当に君のことが好きなんだね」
すると彼の手がユウの額で動きを止めてそのまま頬に滑り落ちる
ゆっくり椎名のほうに首を傾けてそれから小さく息を吐いた
影を纏うその瞳で椎名を見つめゆっくり瞬きをして一言つぶやいた
「俺...優しくできると思う?」
その声は今まで聞いたことがないほど弱弱しく泣きだしてしまいそうな声だった
椎名は思わず息をのみ、すぐに答えてあげることができなかった
「あ...」
椎名が何かを言いかけたとき彼は急に頭を左右に振って、それから笑った
「なんてね!さっ!俺お風呂入ってくる」
さっきの言葉を打ち消すように彼はユウを抱えて立ち上がった
「ユウ?寝る前にお風呂はいろうね」
ニコニコといつもの笑顔
笑っているようで瞳の奥は笑っていないあの笑顔だ
そそくさと離れてしまう彼の背中越しに今にも瞼が落ちそうな顔でこっちを見るユウがいた
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