116 / 445

大事な名前

何もわからない相手に何を言ってんだろう 彼はふっと自分を嘲笑う 目を伏せてため息を零した時、それは聞こえた 「あ...あ、、」 パシャンと湯をかくようにしながらユウは彼に向かって何かを言っている 「なに?どうしたの?」 なにかを訴えるその顔は必死でもつれるような舌を懸命に動かして唇を震えさせた 「あー、、んぁっ!」 「なに?なにが言いたいの?」 何かを言っているのは分かる だけど何を言っているのかわからない 必死に訴えられても彼には何も伝わらなかった 「もう、わかんねーっつーの」 彼が指先で弾いたお湯をがユウの顔にかかる それが終わりの合図 彼はもういいやとばかりに横を向いてため息をついた 露骨にがっかりしたその表情 その横顔を見ているとユウの胸はズキンと鳴った なんだかすごく悲しくて泣きそうになって お湯に浸かった膝を抱えるようにして自分を抱きしめた "だいすき" そう言いたかった どうして? どうして自分は彼やあの人みたいにお話ができないの? いっぱいの"好き"をどう伝えればいいのかわからない それを教えてもらうのはどうすればいいの あの人は知っているのかな あの人なら教えてくれるのかな あの人ならこの気持ちがわかってくれるのかな そんなことばがりがユウの頭の中をぐるぐる回っていた

ともだちにシェアしよう!