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大事な名前
大好きな人の名前を知った
「み」と「つ」と「る」と「く」と「ん」
とっても長くて難しくて覚えられそうもなくて...
だけど聞こえるともっと聞きたくて
言えるようになれたらいいなぁと思った
玄関の前でバタンと扉が閉まって足音が遠くなっていく
あぁ...また今日もいなくなってしまった
大好きな人はいつもどこかへ行ってしまう
「ユウくん?こっちで僕と遊ぼうか」
ぼんやりと扉を見つめるユウを椎名は手を引いて部屋へ連れ戻した
ユウが見上げると椎名は目を合わせてニッコリと微笑んだ
ーー この人は彼と仲良しでいつもニコニコしている人
この人がいつも一緒にいてくれるから楽しい
楽しいけれど...
「みつるくん、お出かけしちゃったねぇ、さみしいね」
....そう、さみしいのだ
彼がいないのはすごくさみしい
彼は出かける前にギュッと抱きしめて
「行きたくないなぁ...ユウといれなくてさみしいな」
と言った
”さみしい”と”ユウ”は分かることができた
ユウもさみしいのって...言えればいいのにな
「今日は何しようか」
そう言って椎名はニコニコしながらユウの元へぬいぐるみを持ってくる
あのね
えっと...
教えてほしいことがいっぱいあるの
「うぁ...」
「なぁに?ゆっくり言ってごらん?」
ふと、何度も彼がこの人に話している声が頭の中に響く
「せんせい、ユウの事よろしくね」
「せんせい、あのさぁ」
「今日はせんせいと何したの?」
せんせい
せんせい
「せ...せんせ?」
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