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”大丈夫”ってなんだっけ...
「大丈夫」と言われるとホッとして恐怖も不安もなくなるけれど「大丈夫だよね」と言われると痛くて怖くてたまらない
大丈夫だよね、我慢できるよね、ユウはいい子だから大丈夫だよね
彼はよくこんな風に「大丈夫」を使う
これを言われた後はひどく苦しくなって息ができなくなる
だけどせんせぇは全然違う「大丈夫」を使う
もう大丈夫だよ、心配ないよ、大丈夫...
力強く言われると心が温かくなって安心する
同じ言葉なのに二つの真逆の意味を持つ言葉
今彼が言った「大丈夫」はどっちかなぁ...
蕩けていく頭でユウは考える
彼が優しく触れてくれるところが熱くてたまらないほど気持ちがいい
このまま溶けてしまえるようなホッとできてうれしくなるような”大丈夫”だったらいいのにな
できれば...そう
せんせぇの”大丈夫”がいいなぁ...なんて頬を緩ませながらそんなことを考えた
殴られなくなって怒られなくなった日々は今まで耐えず気を張り続けていたユウの心を緩ませていた
もう痛いのは嫌だった
怖いのも嫌だった
...だからほんの少し沸いた疑問が徐々に頭の中を広がっていくと願うようになっていた
そこに深い意味があったわけではなかった
それは単純にそうあってほしいと思ったことだった
”せんせぇの「大丈夫」だったらいいな”
そしてそれは緩んだユウの口元から無意識のうちに流れていった
まるで息をするのと同じように静かに小さく零れて彼の耳に届いた
「せん...せ」
すると太ももを撫でる手がピタリと止まり押し当てられていたはずの唇が離れていく
彼はユウの足の間からゆっくり顔を起こすとその目でユウを見据えた
さっきまでと同じ穏やかな顔
なのになぜだろう
彼の瞳の色だけ凍り付くように冷たく変わっていくように見えた
彼はユウを見据えたまま静かに唇を震わせた
「今...なんて言ったの?」
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