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白い床に小さな真四角の光が映る それは投げだしたユウの足の上で輝きながらゆっくりと時間をかけて移動しながら消えていく もう何度見たのか分からない 一度だったのか...それとももう何度も見送っているのか...実はあれから大した時間が経っていないような気もするし、何日も過ぎてしまっている気もする ずっとここに閉じ込められていて時間の感覚が分からなかった あれからずっと彼は部屋を訪れない お腹すいた ...喉渇いた 浮かんでは消えていく飢えをぼんやりしながら感じていた 最初の内は頭の中で自分の置かれた状況を拙いなりにいろいろ考えていたはずなのに今はもう思うことは一つになってしまっていた 会いたい 会いたいよ 寂しいよ... どうして来てくれないの...? このまま来てくれなかったらどうしたらいいのか不安でいっぱいだった ユウの目線は常に開かない扉に向けられている 近づいて叩いて声を上げたかった けれど身体は重く、動かすと当然のように痛みが走る状態ではそれはできそうになかった 「...」 するとどこからかサァァ....と水の流れる音が聞こえる 「...?」 扉は遠く向こうの物音が聞こえるはずもない ユウはぼんやりとしながら目線だけで辺りを見渡した けれど部屋の中は自分一人、音が鳴るようなものは見当たらない 一人ぼっちの部屋で、聞こえてくるのはその音だけ... なんだか無性にそれが気になって痛む身体を押してよろよろと立ち上がってみる するとそれはどうやら窓から聞こえているようで近づいて見てみると... それは雨の音だった 「ぁぁ...」 窓に吹きつける雨の雫を指でなぞり、顔を窓に近づける そしてユウは思いだした ずっと一人で彼が来るのをこの部屋で待ち続けていた日々を 何してたんだっけ... えっと... そうだ、こうやって待ってたの こうやって外を眺めてずっとずっと...彼が来てくれるのを待ってたの 窓に映る腫れあがった顔を眺めてそっと指先で触れてみるとなんだか熱っぽくて腫れぼったい ユウは今度は舌を出して窓に映る雨に舐めてみる 雨は窓の外にあるものでユウが触れられるものではなかったけれどどうしても舐めてみたかったのだ 「...」 何の味もしない雨を舐めるとなんだか目の奥がツンと痛くなってきた ユウはまたひたすら外を眺めながら答えのない疑問を浮かべていく あめっておいしいのかな... どこから流れてくるのかな... そしてふと椎名のことを思い出して心の中で呼びかけた せんせぇ... あのね...あのね... えっと...えっとね... 教えてほしいことがいっぱいあるの... ...答えはどこからももらえなくてユウは考えるのをやめた 考えれば考えるほど寂しくてなって会いたくなってそればっかりしか頭に浮かんでこなくなってしまう ユウは頭を振って椎名の顔を頭の中から追い出した 窓に映る自分の顔は雨の雫と重なってまるで泣いているみたい けれど少年は彼に怒られてから泣くことができなくなっていた 理由は分からない...泣きたいのに涙が流れない それからしばらくずっと窓を眺めていると鍵を開ける金属音が聞こえた 「...っ」 待ちに待った扉の開く音 それはやっと彼が来てくれた音 おぼつかない足で駆け出して扉に向う 「おっと...」 彼は扉を開けた瞬間に転がるように飛び出たユウを抱き留めた ずっと待っていたことを伝えるようにユウの腕は強く彼の腰に巻き付いていく ミツルはその腕を剥がすように掴んでユウの顔を覗き込んだ 「いい子にしてた?」 「...?」 「まだ大丈夫そうだね、おいで?遊んであげるから」 ミツルはそういってユウの腕を強く掴んで引きずるように部屋を後にした

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