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そうか....ユウのことか....
マナトは涼介の言葉で自分が何をしたのかを思い出した
樹達と楽しく過ごしたことですっかり頭の中から消えてしまった事実が今になって目の前に突きつけられる
なんのことはない
今日の涼介がいつもと違うように見えたも、自分を待っていたのも他でもないユウのためだ
勝手に連れだして置き去りにしたことを咎めるためにいつもは寄り付かない自宅に、大事な仕事の手を止めてまで帰ってきた
全部全部、大事なユウのために
「お前、自分が何したか分かってんのか?」
すべてが分かるとマナトの期待に膨らみかけていた心もすっかりしぼんでしまい、涼介の言葉もろくに頭に入ってこない
何もかもどうでも良くなって、むしろ期待してしまったことを恥ずかしいとさえ感じてしまった
「おい、聞いてのかよ」
ろくに答えもしないマナトに痺れを切らした涼介が腕を掴もうと手を伸ばす
するとそれは勢いよく弾かれ渇いた音が部屋に響いた
「触んなっ!!」
「あぁ?!」
咄嗟のことに思わず反応して語気を強める涼介をマナナトは顔を真っ赤にして睨みつけている
「あいつなんてどうなろうと知らねぇよ!!ユウユウってバカじゃねぇの?!」
「なんだと...?」
「何にもできないくせに、いつもへらへらして....あんな奴、いなくなっちゃえばいいんだっ!!」
マナトは叫びながら今にも一緒に出て来てしまいそうな本音を必死に抑えていた
何もできなくても愛されるユウと何をしても愛されない自分
元は同じように何もなく空っぽのはずなのにユウといるたびに浮かんでくる疑問
どうして?なんで?
俺とユウの何が違うの...?
その嫉妬と羨望はいつしかユウに対して攻撃的になる事で、爆発するのを抑えていた
「あんな奴....「てめぇ、いい加減にしろよ!」
涼介はマナトの胸倉を掴んで叫びかけた言葉を制止する
「俺、言ったよな、ユウのことバカにすんなって.....あいつはな、お前みたいなやつとは違うんだよっ!!」
「....っ」
「いいか?これ以上ユウを傷つけるなら俺はお前を許さない、本気だからな、覚えておけ」
至近距離で凄まれたマナトはあまりの恐ろしさに口をパクパクするだけで答えることができなくなった
掴んでいた手を外されるとマナトは床にぺたりと座り込む
全身が涼介に対する恐怖で震えて止まらなかった
ユウのためなら本気になる涼介をまざまざと見せつけられてはもう太刀打ちなどできない
「もういいっ....俺出てく」
マナトはやっとの思いでそう告げると真上から涼介の冷たい声が降ってくる
「あ、そう。好きにすれば、もともと俺にはお前を世話する義務なんてないし好きにしろよ、野良犬は野良犬らしく勝手にどこでも行けばいい」
「...っ」
言い返す言葉もなくマナトは床の木目を見つめていた
分かっているはずなのに、引き止めてもらえなかった事にまた傷ついた
涼介は自分の言いたいことだけ言うとさっさと部屋に戻っていく
涼介にとっては自分などいてもいなくても同じなのだ
1人になったリビングで呆然としながらマナトは部屋を見渡した
もう2度とここに来ることはないだろうこの豪華な部屋をせっかくだから目に焼き付けておこうと思う
ここはまるで物語のような部屋で何から何まで揃えてあった
ほんのひと時でも味わった事のない生活は知ってしまったら最後、もう少しだけここにいたい、もっと自分を受け入れて欲しいと思うようになっていた
けれどそれは幻で、ここに自分の居場所など最初からなかった
ここは自分が生きる世界とは別世界のもので、欲しかった場所にはユウがいた
自分が入る隙間など一ミリだってなかった
「行かなくちゃ....」
出て行かなくちゃ.....でもどこへ?
行くあてなんてないけれどここは自分の居場所ではないから
まだ震えが収まらない足を奮い立たせて、マナトはふらりと立ち上がった
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