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それでも一度倒れてからのユウは今までにない変化を見せるようになった 例えば、ミツルがタバコを吸うとき ライターに手を伸ばせばビクついてタバコを吸い終わるまでじぃっとその先端を見つめて怯えるようになった 「しないよ、もう絶対しないから」 何度言っても不安に曇る目は晴れない 「ねぇ、もうしないってば」 焦れる気持ちからつい強く声を荒げたくなるのを抑えてミツルは何度もユウに繰り返した しなくちゃ...やらなくちゃ... ちゃんと大丈夫って分かってもらえればきっと先生だってユウを連れて行ったりしないはず 離れたくない一心で彼は必死になってユウに接していた 「ねぇ、ユウはなにしたい?なんでもするから言って?」 けれどそのたびにユウは困ったように首を傾げてミツルを見上げるばかりだった 「えっと...だから、なんかない?なんでもいいよ?ぬいぐるみ?絵本?プリン食べる?」 「ぅ...?」 「だからっ...なんでもいいんだってば」 ミツルの問いに答えられるはずもなく、焦る彼にユウは戸惑ってばかりだった そもそもユウには彼に求める事などなにもないのだ 何かを望むことは許されていなかった それを今になって何かをと問われてもなにもない しいていうなら自分を好きでいてほしいだけ だけどそれを言葉にする事はできなくて、彼が望む事をできないことにまた不安が募る なんだか苦しいな... ゆっくりじわじわ首を絞められているみたい 彼に"なにか"を求められるたびにユウはそんな風に感じるようになった 考え出すとなぜか身体がカタカタと震えてしまう 小刻みに震え出すその手を見られないように握りしめると、今度はその手を握られて 「俺、ユウの事好きなんだよ」 ーー彼は必ずそう言うのだ 言われるたびにユウは一生懸命、彼に答える 「みぃくんっ、すきっ」 「だからそうじゃなくてっ....」 呆れてため息をつかれてしまってはなにがなんだか分からない 何が違うの....?ユウにはミツルが考えていることがちっとも分からない 分からないから不安になって、おどおどしてしまうユウの態度にまた彼は焦り出し、今度は強めに問いただしてしまう 強かったはずの2人の絆に小さな綻びが見え始めるとそれは途端に広がっていった

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