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「ある日、ペンギンさんは言いました」
「ぅ...?ぎぃ?」
「あはは、ユウくん上手だね、ペンギンさんだよ」
椎名の膝の上でユウはきゃっきゃっと笑い声をあげていた
読んでもらっている絵本はすでにお気に入りの一つに加わり、ぬいぐるみと絵本を代わる代わる毎日眺めては楽しそうにしている
そんな2人を遠巻きに眺めながら、ミツルは1人孤独を感じて、その輪に加われないでいた
「ミツルくん!ユウくんが呼んでるよ?」
椎名の声にそちらを向けばユウが満面の笑みで自分を見つめている
「みぃくんっ」
呼ばれれば心が柔らかくなって彼はそれに答えるように手を振って笑顔を見せた
「ちょっと待って、今あったかい飲み物入れるからっ...」
キッチンで椎名にはコーヒーを、ユウにはホットミルクを作ろうとコンロの火をつける
ユウにははちみつを入れて甘くしてあげよう...
まだ大丈夫...ほら....あんなに笑ってくれているんだから....
不安定な気持ちは拭えなかったけれどそうやって彼は自分を制していた
ーーーーーヴィヴィヴィヴィヴィ
ガラステーブルに置いた携帯が震える
「あっ、ユウくんちょっとごめんね?」
椎名は一声かけるとユウを膝から降ろし電話を取った
「もしもし?涼介...?今から?....あぁ...うん、了解、すぐ行く」
椎名の電話の相手が誰だかは知る由もないが今から外出することだけは分かった
携帯を耳から離した椎名はキッチンにいるミツルに手をあげる
「ごめん、ちょっと出てくるね?」
「....どこ行くの?」
ここに二人で残されることに少し不安になった彼は思わず椎名に聞いていた
「すぐ戻ってくる?」
不安げな彼の表情に椎名は「大丈夫だよ」と穏やかな口調で告げた
「ちょっとこれからのことで確認してもらいたい書類があるんだって。1、2時間で戻るよ」
これから....?書類....?
椎名の言葉に少しひっかかり彼は怪訝そうに眉をひそめた
「それ...ユウの?」
「うん、僕の友人が必要なものをそろえてくれてるから心配ないよ」
「その人、本当に大丈夫!?絶対大丈夫?」
ミツルは思わずキッチンから飛び出で椎名に詰め寄るように近づいた
「ちょっ...落ち着いて」
彼のすごい形相に驚いて迫る身体を押しのける
「でもっ....」
椎名は彼の肩を抱いて落ち着くように促すとゆっくりと深呼吸させた
「大丈夫だよ、僕なんかより頼りなる奴だよ、いずれ君にも会わせるつもりだから」
「....」
椎名は黙ってうつむいてしまう彼の背中をさすっては穏やかに語りかける
「何かあっても病院一つかかれないなんてユウくんがかわいそうだよ?」
”ちゃんとするって約束したでしょう?”
椎名の言葉にはそんな意味も含まれていた
ーーそうだ、約束したんだ
ユウがこれから生きていくために先生に任せるって決めたんだ...
彼は言いたいことをグッと胸にしまい込んでコクンと頷いた
しおらしくうなずく彼に椎名は良かったと笑って上着を羽織る
「すぐ戻るから....あっ、ユウくんにはお土産買ってこようかな」
椎名は床にペッタリと座り込むユウの頬を人差し指でチョンとつついた
「じゃぁ行ってくるね」
椎名は彼の不安をよそにあっさりと部屋を出て行ってしまった
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