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椎名が出て行っても後もとくにユウに変わりは見られなかった
ひょっとしたら”行かないで”と泣いてしまうのではないかと気になったがそんな事もなく絵本を眺めてはニコニコしているユウにミツルは安堵のため息をついた
むしろ行かないでほしいと願ったのは自分の方で情けなくて笑ってしまう
服がくいっと引っ張られる感覚に後ろを振り返るといつのまにかユウが大きな瞳で見上げていた
そして彼と目があうとにこぉっとめいっぱい口角をあげて「みぃくん」と微笑んだ
”みぃくん、遊ぼう?”
そんな声が聞こえた気がしてミツルはすぐさまユウを抱き上げた
「遊ぼう、遊ぼうね」
自分を受け入れてほしい彼はなにを置いてもユウを優先するようになった
ソファに隣同士に座らせると手を伸ばして膝に乗りたいと強請ってくる
そのままミツルはユウを後ろ抱きにして膝にのせた
彼の膝に乗りながら大きな絵本を広げてはしきりに指を指してなにかを伝えてくる
「へー、これすごいね?動くんだ」
絵本の端から飛び出るつまみを引っ張れば描かれたペンギンが羽を動かす
「きゃはっ、あー」
ニコニコ笑ってしきりに喜ぶから彼は安心することができた
これはユウにとっていいことなんだな...と確信する
何がダメで何が大丈夫で...自分の行動の全てに自信が持てず、ブレーキがかかる
膝に乗せた後ろ姿を見ながらふと、出かけてしまった椎名の事を考えた
これからの事、書類、友人、協力...
それはこれからのユウにとって大事な事
俺とユウが一緒にいるために必要な事
ーーでもそれって俺とユウを離すために集めてる材料なんじゃないかな
それが揃ってもなお、ユウがここにいる必要なんてあるの?
先生ははっきりとは言わないが、本当はもうすぐユウを連れ出す気なんじゃないだろうか
考え出すと急に不安になってミツルはユウを後ろから抱きしめた
自分の中に閉じ込めるように、小さな身体に腕を回してぎゅうっと力を込める
そんなに強くはなかったと思う
少なくとも痛みがあるほど、力を込めたつもりはなかった
けれど、腕を回した瞬間、ユウは大きく身体を跳ねさせて声をあげた
「ひゃあっ!!」
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