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ユウが驚いた拍子に絵本がドサリと床に滑り落ちる
「あっ...」
慌ててそれを拾おうと身を乗り出したユウが膝上からずり落ちそうになるのを抱えて抱きとめるとミツルの腕に震えが伝わった
ーーなんで?
ちょっと抱きしめだけなのに...
「ユウ、ちょっと座って?」
「ぅ...ぅ...」
ミツルがソファに向かい合わせでユウを座らせるとその目が不安に揺れていた
眉を寄せて目をきょときょとさせながら目線を合わせるのを躊躇して明らかに怯えている
「ごめん、びっくりしちゃった?」
彼は宥めるように言いながらユウに突如沸き起こった不安を消そうと試みる
「ごめん、ごめんね?痛かった?」
穏やかな口調で、分かりやすい言葉で、自分のできる限りの”優しい”をユウに向けてみる
ーーなのに...言えばいうほど顔が曇るのはなんで?
「ねぇ?なんで?なんでそんな顔するの?」
いつのまにかミツルは畳みかけるようにユウに問いただしていた
「そんなに嫌?俺、優しくない?全然足りない?」
一度口から出てしまえば止めることなどできないほど言葉は次々と溢れ出す
「ぁ....ぅぅ...」
たじろぎ胸の前で両手を握り締めるその手を乱暴につかんで責め立てる
「どうすればいいの?どうして欲しいの?俺分かんないから、言ってよ?!」
「あっ...あっ....」
言葉で返っては来ないのは分かっているのに怯えて発する声がさらに彼の口調を荒くさせた
「どうして欲しいんだよっ!?言えよ!?俺やるから、お前がしてほしいこと全部やってやるからっ...」
勢いに任せてユウの身体ごと揺さぶるとその拍子にミツルの前を冷たい雫が横切った
「....っ....」
いつの間にかユウは真っ青な顔で彼を見上げていた
目には大粒の涙を宿し、全身を硬直させて声すら上げることもできなくなっていた
ミツルは自分のことで精一杯でそんなことすら気づくこともできない
突然の涙に我に返った彼は強く掴んだ手を放して狼狽する
ユウの手には彼の強く握った爪跡がくっきりと残されていた
「ごっ...ごめん、ユウ!!ごめんね?!」
取り繕うように笑顔を見せて何とか泣き止ませようと彼は必死に謝って見せる
「本当にごめん、許して?ごめん...」
泣かれたら困る
もう泣かせないように、無理をさせないように、自分の欲をユウに押し付けないように...
それは椎名に何度となく言われていたことだった
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