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しばらくすると散々叫んでいた声が止み、その代わりに聞こえてきたのはユウのえづく声 「ユウ?」 スリガラスには小さくうずくまり、扉にもたれかかるユウの頭が見える ミツルは大人しくなったのを見計うとそっと扉を開けて中を覗く そこに見えるのは顔を覆い静かに泣いているユウの姿 「ユウ、吐いちゃったの?」 手や服が吐き出したソレで汚れている 「汚れちゃったね、着替えよっか」 ミツルが声をかけるとユウはぴくっと肩を震わせた ユウに近づくと座り込んだ足元には水たまりが広がっていた ひとり閉じ込められた中で、嘔吐して粗相までしてしまったユウの姿にミツルはどれほどの恐怖を与えたのかを思い知った ”君は自分のした事の重大さを理解したほうがいい” 椎名の言っていたことはこういうことなのだろう、自分は何も分かっていなかった ”今までのようにはいかない” ーーそうか...そうなんだ 汚れた身体をきれいにしようと蛇口に手をかけると凍りつく空気が分かった ここがバスルームなのにシャワーで洗い流すこともできないなんて... "今までと同じようにはいかない"という事はユウが今までのように俺の事を想えないということ ただ、純粋に追いかけてはくれないということ ーーそういうことなんだな 彼は怖がり身を硬くする身体を拭いてやろうとタオルを濡らす 服を脱がせて清めている間、ユウはずっと泣きじゃり、同じ言葉を繰り返していた 「みぃくん...ごめん...なさぃ...みぃくん、ごめんなさ っ...」 「...謝んなくていい」 「みぃっ...くんっごめっ...なっさっぃぃっ...」 何度も泣きながら謝るユウにミツルは答えることなく黙々と処理をしていく 「みぃっ...「黙ってろ」 「...っ....」 ついにはキツく言われてしまったユウは唇を噛んで声を飲み込んだ 真っ赤な目からは絶えず涙が溢れ、結局は声を殺して泣き続けた 目も合わさず声もかけてもらえないことでユウはまた自分を責めていることだろう けれど彼がそれをしなかったのはできなかったからだ 目を合わせることも、声をかけることも、謝ることも、抱きしめることもできない ーーーもうダメなんだな 分かってしまったから何もしてあげることができない この日、とうとうミツルはユウを泣き止ませることができなかった

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