1 / 9
幸せ
「文汰 。そんなに紡 のほっぺたつついて、泣いたら自分であやしてね」
「………泣かれたら困る」
「んもう。弱気なパパで、紡困っちゃったね」
スヤスヤと眠っていたはずの紡が、文汰のほっぺたつつき攻撃のお陰でぐずり始めた。文汰はまだ、紡が泣いているのをあやすのは苦手らしい。子供のように口を尖らせて、チラチラと白の方を向く。
白は、仕方ないなと笑いながら紡を抱き上げた。子守唄を歌いながら、紡をあやす。そんな白の姿を見るのが、今文汰の中で1番癒される光景だった。
白は、一般的に言ってイケメンでも美形でも美人でも、そして可愛くもない。平凡という名が相応しい男だが、子供を抱く姿は聖母のようだ(と文汰は思っている)。
「やっぱり、お前は可愛いよ。白」
「文汰、また写真撮って。恥ずかしいって言ったでしょ」
「本当は動画で撮りたいんだが、写真で我慢してるんだ」
「もう!撮るなら、紡を撮ってよ」
「紡も撮るが、白も撮る」
買ったばかりのカメラを文汰が白に向けると、恥ずかしいと言いながらも最高の笑みを見せてくれた。恥ずかしいが、大好きな文汰が撮っているのだ。笑みがこぼれないはずがない。
しかし、先週買ったはずのカメラと違うことに白は気づく。
文汰はいっぱいお金を稼いでいると白も理解している。だが、だからと言っていろんなものを買いすぎるのはよくない。紡も産まれたのだ。子育てには、いろいろとお金がかかることを白でも知っている。
だからこそ、ここは心を鬼にして文汰を問いたださなければならない。
「文汰。そのカメラ、いつの間に買ったの?先週買ったやつとは違うよね」
「それはだな。その、先週買ったカメラよりもこっちの方が性能がよくてだな」
「お金があるのは分かるけど、買いすぎはよくないって言ったよね」
「だがな、」
必死で今手に持っているカメラのすごさを話しているが、白には理解できない世界だった。難しい言葉を並べられても、白にはよく分からない。
だけど、いっぱい要らないものを買っている文汰が自分達の為を想って買っているのは十分理解できるのだ。きっとこのカメラも、自分や紡をキレイに撮るために買ったんだろう。
「もう。文汰は仕方ないんだから」
心を鬼にしないといけないのに、文汰のことが大好きな白は結局許してしまう。
幸せだった。確かにそこに、文汰と白の幸せがあったのだ。
あの人が現れるまでは。
ともだちにシェアしよう!