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不穏な影

朝、といっても11時頃。文汰がネクタイを結ぶ姿を、紡を抱っこしたまま白は見ていた。 ネクタイは、仕事をする上での武器になると文汰は何十種類のネクタイを持っているが、白には理解できなかった。初めてそれを聞いたときは、武器になるんだから刃物でも仕込まれていると思ったぐらいだ。文汰と村田に、腹を抱えて笑われたが。 そして、今日結んでいる武器となるネクタイは白の選んだものだった。初めて、白が文汰にプレゼントしたものと言っていいのかもしれない。文汰がいつも身に付ける、高級スーツに合うように村田に助言をもらいながら選んだ。 要らないと言われるかもと思ったが、そんなことはなく。本当に嬉しそうに笑って、文汰は受け取ってくれた。 「ん。どうだ、白。キレイに結べてるか?」 「うん。文汰はいつもキレイに結ぶよ」 「まぁ、1度でいいからあれをやってみたいんだがな。夫のネクタイが少しずれていて、妻がそれを直すあれだ」 「手が不器用だから、俺は無理だよ」 白もやってみたい気もしたが、自分の不器用さを思いだし無理と諦める。文汰もそれが分かっているし、わざとずらして結ぶとか出来ない男だ。だから文汰も無理と諦めている。 「じゃあ、ネクタイピンを付けてくれるか?」 「うん。それぐらいだったら、俺にも出来る」 紡をベビーベッドに寝かせ、これまた何十種類あるネクタイピンの中から、結んであるネクタイに似合うやつを選ぶ。どれが似合うとか、白は最初理解できなかったが、最近になって理解できるようになった。1週間ぐらい前から、1人で選んでいる。 「じゃあ、動かないでよ」 「あぁ」 プルプルと手を震わせ、緊張した様子で白はネクタイピンをつける。曲がることなくつけ終わったあと、ホッと息を吐けば文汰が白の頭をそっと撫でた。 文汰の大きな手に撫でられるのが好きで、自然と幸せな笑みが溢れる。 その時だった。 村田の勝手に上がるなと言う声が聞こえる。バタバタと騒がしい音も聞こえてくる。文汰が、咄嗟に白を背中に隠した時、部屋のドアが開かれた。 「ごきげんよう、文汰さん。ずいぶんと遅いみたいなので、私待ちきれなくて迎えに来てしまいましたわ」 女の人の声が白の耳に届く。文汰の名前を呼んでいたから、知り合いだということは白でも分かった。 どんな人なんだろう。 文汰の背中から顔を少しだけ覗かせて、声の主の姿を見た。それはもう美しく整えられた女性で。 パチリ。 白とその女性の視線が絡み合った。 すると女性は、白の顔を見たと思ったら勝ち誇ったように笑顔を見せてきた。

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