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第10話
「例祭の翌日うちに来たんだよ。お前にちょっかい出すなって。あいつ、……あの後外にいてタオル見たって……それでお前とやったのか?って」
「……してねーし」
夏生が唇を噛んで頷いた。
「俺もそう言った。そしたら、祥爾は男だ、お前男となんかセックスできないだろって……」
そこで言葉を止めて、俺の顔を見てから視線を泳がせた。
夏生、と呼ぼうとした時、
「この前止めなかったの、わざとだから」
わざとだから?
首を傾げた俺を見て夏生は腕で顔を拭った。
「練習中も、お前が近くにいると変なことばっか考えてた。例祭さえ終われば前みたいに何でもない顔して会えるようになるって思ってたのに、あいつが頭撫でてるの見て我慢できなくて……そしたら、祥爾がキス、とかしてくれて」
そこまで一息に言い、大きく息を吐いた。
「お前まだ十五だろ?俺が止めなきゃいけないのに、嬉しくて、気持ちよすぎて流されたんだよ。だから、いつか酷いことしそうで……離れなきゃ」
俺を見る目は悔しそうで泣きそうで、でも真直ぐな視線が俺だけを見てくれている。
それでも、夏生らしい優しさが今は無性に腹立たしかった。
「一人で勝手に決めんな!」
突然大声を出した俺に夏生は目を見開いた。
「流されたとか言うなよ!俺はしたかったんだ!夏生は違うのか?」
喧嘩腰で助手席から身を乗り出して夏生の胸元を掴んだ。かすかに戸惑ったあと、唇を噛みしめた夏生が眉根を寄せて目を閉じた。
「目閉じてなかったことにすんな、答えろよ!」
怒りに任せて引っ張ろうとした時、手首を掴み返された。驚いた俺の身体を下腕で助手席に押し付け、鼻先が当たるくらい顔を近づけた夏生の低い声がした。
「お前は……いいんだな?」
いつも穏やかな瞳に獰猛な光。考えるより先に頷いていた。
唇を開いて舌を見せると噛みつくようなキスをしかけられた。
左手で顎を掴まれ舌がねじ込まれる。その強引さと性急さに欲が煽られた。身体を押えこむ腕を押しのけて首に腕を回し、広い背中を引き寄せると汗ばんだシャツを通して鼓動が伝わってくる。
一秒でも早く繋がりたくて舌で誘い合った。
長身を窮屈そうに動かしてコンソールを乗り越えた夏生が、手探りで助手席を後ろにスライドさせ、背もたれを倒して俺に覆いかぶさってくる。
重なる体重と体温に、喜びで身体が震えた。
+
疲れたのか、夏生は子供みたいに俺を抱きしめて眠ってる。
フルフラットにした後部座席に男二人。起こさないようにそっと腕をどかせたのに、小さく呻いて抱き寄せられた。
夜の山の涼しい空気が窓から入ってくる。
夏の匂いに包まれて、今度は起こすために夏生の名前を呼んだ。
【完】
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