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第9話

例祭の後すぐに夏休みが始まり、ようやく夏生に会えると俺は浮かれていた。 どんな顔して合えばいいんだろう、何話そう。 きっと夏生は喜んでくれるのか少しだけ不安に思いつつ、平静を装ってメッセージを送った。 >元気? >ついに夏休み! >暑い、海行きたい! >夏生は休みあるの? >海いこー >忙しい? 何度か送ったメッセージには返事がなかった。 無視、それともほんとに忙しい? 既読無視じゃない、という微かな希望に縋り付いて待ってみたけれど二日たっても返事はなかった。目の前が真っ暗になった。 一度だけ電話したらすぐに留守電に切り替わった。何も言えずに切ると、翌日数コールの着信履歴がついていた。もう一度かけ直したのに、今度は留守電にも切り替わらない。 連絡、するなってことか…… 夏生とは何度も喧嘩してきたけど、これは違うことくらい分かる。 友達やセンパイからは遊びに行こうと連絡がくるのに、夏生からは一週間たっても何も来なかった。センパイと会う気はなかったし、友達と遊んでも夏生の事が頭から離れずにいた。 あの時夏生は何を聞こうとしてたんだろう。 家に帰って正気に戻って俺の事を軽蔑した?やり慣れた馬鹿だと思った? 決定的な答えなんて知りたくないのに、声が聴きたくてしょうがなかった。 最初の一週間を遊び倒すと、友達の誘いも落ち着いて暇ができた。 夕方、何をするでもなく自転車で緑地公園の近くを通った時、遠くに夏生を見かけた。仕事の用事じゃないのか珍しく、シャツにチノパンという格好だった。 「夏生!」 気付いたら名前を呼んでいた。 俺の声にこちらを向いた夏生は、はっとしてからばつの悪そうな顔で口を動かして何か言い、背を向けて歩き出した。ひと気のない駐車場に夏生のRV車がぽつんと停めてある。 あの夜の事後悔してる?にしても、逃げんなよ! 今までずっと悩んでたことを全部忘れて思わず声を上げていた。 「夏生!待てよ、待てってば!」 誰もいない盛夏の熱いアスファルトの上を全力で自転車をこいで走る。空気が重くて皮膚に絡みつく。車のところまで行くのに何秒かかるんだってくらい遠かった。 運転席に乗り込んだ夏生は逃げるようにエンジンをかけたけど、俺が助手席のドアを開けてシートに滑り込んだら諦めて顔をこちらに向けた。唇を固く結んで眉根を寄せた顔に、苦しいのはずっと無視されてたこっちなんだよ、と怒鳴りたかった。 「なんで無視すんの?嫌いになった?キモくなった?」 俺の言葉に夏生がありえないほど驚いた顔をした。 「何でって、お前の……彼氏が」 「は?彼氏って誰?」 「あの時来てた遠藤が」 「あいつは彼氏なんかじゃない」 俺の答えに納得いかない表情の夏生の顔に傾いた日が当たる。眩しそうに目を細めて、ハンドルに置いた腕に顔を伏せた。

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