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第8話
身体を捩じって夏生の頬を掴んだ。久しぶりに間近で見た眼は、潤んで真直ぐに俺を見詰めている。何を言うでもなく震えている唇が愛しくて我慢できずに塞いだ。
縺れるように預けた体重を全部受け止めながら、夏生の手が俺の頭を包み込む。お互いに唇の感触を確かめ合うように、何度も何度もキスをした。触れたさきから身体と理性を繋ぎとめていたものがほどけてゆく。その快感に逆らえずに唇を開くと、温かい舌が入ってきた。
低い声でゆっくりと話す癖に絡められる舌は饒舌に口の中を掻きまわしていった。夏生の手が二人の衣装を交互に解いて行く。紐を解き、唇を離し俺の顔を見ては脱がせ、また唇を塞ぐ。
着物だけになった時に堪らず裾から手を入れたら、夏生のそこはもうしっとりと蜜を溢れさせていた。
外からは葉擦れの音と宴会の準備をする声が聞こえてくる。
座布団の上で片膝を立てている夏生の太腿が、はだけた単衣の裾から覗いていた。
大きな手が俺の頭を撫でる。何度も、何度も。さっきセンパイに撫でられた痕跡を拭い去ろうとしているみたいに。
切なそうに眉根を寄せた顔は、困っている様にも見えた。
畳に手をついて近づき、裾を開いて下着の縁に指をかけると、夏生は微かに身体を引いた。でも俺の手を止めなかった。内側から押し上げられている下着をずらすと、濡れそぼった欲が飛び出た。天井にむかってしなやかに反るそこを手で包み、身体を屈めて先端にキスをした。
ピクっと反応するのすら愛しい。口に含むと汗なのか溢れる蜜なのか、不思議な味がした。夏生の形を確かめるように舌で舐め上げると、小さく呻いて俺の後ろ髪を握り締めた。
フェラチオが何をする事かは知っていたけれど、誰かのものを口に入れるのは初めてだった。センパイとしている時ですら、するのは彼で俺じゃなかった。
だから勢いで頬張ったものの勝手が分からず、取り敢えず歯が当たらないように唇をすぼめて頭を動かした。這いつくばっている俺の背中に体重をかけないように、夏生は手を畳について上半身を重ねた。
よだれでべとべとになったそれが嵩を増すのに合わせ、俺の熱も昂ぶってくる。自分の手を伸ばして掴んで扱き出すと、それに気づいた夏生が手を添えた。
性急に動く夏生の手の中で俺が果てると、夏生は腰を浮かして膝立ちになった。俺の髪に指を絡めたまま腰を動かし、何度目かの深い打ち込みの後、俺の口の中に生暖かいもの迸らせた。
驚いた瞬間、粘度の高い液体が変な所に入って激しくむせた。
「ケホ、ケホッ、うっ!ッ、ケホッ!」
「祥爾、ごめん、大丈夫か?」
焦って背中を撫でながらタオルで俺の口から零れる唾や精液を受け止めてくれた。
顔を上げると、快感の余韻で上気した夏生が戸惑っていた。
「……ケホッ、なつ お」
嬉しいのと、いきなりこんなことをした恥ずかしさ一杯になり、顔を見られないように下を向いたら訳も分からず涙があふれた。
夏生が汗と勘違いしてくれればいい、泣いてるなんて知られたくなかった。
吐精の痕跡を一通り拭ったタオルを縛って丸めて、夏生は窓を開けた。
え、と思う間もなく、振りかぶって投げたタオルが外の闇に向かって吸い込まれてゆく。
「拭こう、単衣も脱げよ」
何事もなかったかのように言う。
すっかりはだけてぐしゃぐしゃになった着物を脱ぎ、夏生について洗面台に行くと、新しいタオルで顔をぬぐってくれた。何度もすすぎながら拭き、濡れた下着を見てお互いに苦笑した。
「なぁ祥爾、お前ってもしかして……」
言い終わる前に窓の外から呼ぶ声が聞こえた。
「二人とも早くおりてきなさーい。もう始まるわよー!」
その声に現実に引き戻された。
「今いきます」
窓越しに夏生が答え、早く服を着るように身振りで示した。
さっき何言いかけた、と聞けないままTシャツと短パンに着替え、着物は衣桁に引っかけた。温いエアコンの風が、汗と欲望の残り香を早く消してくれればいいのに。
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