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第1話 

 燃えるような赤い髪の女性が振るう槍がまた俺の心臓を突く。  だがそこからは一切の血は流れず、そして槍が引き抜かれた俺の体に傷の一つもない。  しかし痛みは感じる。  もう何度も受けているからだろうか、それともこの不思議な場所のせいだろうか。  痛みと思考が分かたれて、俺は未だ気絶も狂う事も無い。  それが一体どれほどの時間続いたのか。もしかしたら一分だったかもしれないし、一時間だったのか、それとももっと長い時間かもしれない。 「戻りましたー」  その行為は、なんとも和む声と共に終了した。 「うっ」 「あ、起きましたよー」  そう言って俺の顔を覗き込んだのは、ショートカットの何処か幼さの残る少女だった。 「すいませんでしたぁあああああああああああああああああ」  そしてスライディング土下座を決めたのが、さっき俺に槍を何度も突き立てていた女だ。 「取り合えず精神強化及び思考強化に問題なしっと。それじゃあ説明を始めようかな、先ずは自己紹介――」  その後語られた言葉は信じがたく、それでも何故か全て理解してしまった自分がいる。  それに普段ならもっと取り乱していただろ事なのに、何故だが冷静に受け答えが出来た。  彼女の言葉を借りるなら、『此処は天界だから、精神的にも強化されている』という事らしい。 「えっとつまり、貴女が無断で抜け出したのが上司に気が付かれて、貴女と滅茶苦茶似ていた俺が捕まってお仕置きされていたという事ですか?」 「そう言う事ですねー」  驚くべきことにそう言う事らしい。  見た目は全く似ていないという話をしたが、未だ土下座をしている神は魂で人を判断するらしく、なんでもこの人とは前世で双子だった俺が間違って連れてこられたとの事。 「確認もしないでそんな事するなんて、ほんとにどうなってるんだかー」 「元はアンタが無断で消えたせいでしょうが!」  がばっと起き上がり、何処からか取り出した鎖で元双子の兄弟をミノムシへと変える赤髪の女性。  彼女はなんと神様らしい。確かにこっちの心で思っている事等は全て筒抜けだし、今みたいな摩訶不思議な事も目の前で繰り広げられているけれども、そうですねーと簡単に飲み込む事が出来ない。出来ないのに、この場所の特性で理解はしているなんて、正直自分が自分でないようでかなり気持ちが悪い。 「要するに、人違いで連れてこられたという事ですよね、それなら直ぐに元に戻してください」 「……もががもがー」  かなり辛そうな顔をする自称神と、それをあざ笑うような声を発するミノムシ。 「無理です。この場所の時の流れは速い。もう貴方のいた世界では二百年程立っています」 「……そうですか」  罵倒の言葉も出てこない。本当ならもっと取り乱してこの女に掴みかかって行くだろう。  だが全て理解して精神的にも諦めてしまったからこそ、これからどうなるのかという疑問が頭に浮かぶ。 「そうですね、正直普通に転生もさせてあげる事は出来ないのです。神の気に充てられた魂なんて野に放ったら酷い事になりますから」 「一つだけ、気になった事があります」 「何でしょう」 「面倒ならぱさっさと消そうとは思わないのですか?」 「……成る程、確かに私が貴方達をそこらの小さなは羽虫と同じように思っていたならばそうでしょう。実際そう言った思考の神もいます。でも私は貴方達の事を……そうですね、野良猫とか野良犬くらいに思っているのです。私は猫も犬も好きです」 「……不幸だと勝手に思えばなんとかしたいと思ってしまうという事ですか? それも自分が引き起こした事ならば尚更」 「そうです。そこで一つ提案なのですが、貴方の神の気を流すために私の箱庭へ行きませんか?」 「箱庭?」  なんだろうか、いきなりゲームチックな話になって来た。 「簡単に言えば私の収める小さな世界です。中世っぽくはないけど、スキルとかある小さな世界」 「小さいんですか?」 「小さいです、大きな街一つ分の世界、ダンジョンは別にしてですが」  それから神の説明が始まった。  外観的には俺がいた世界と同じような物らしい。技術的には化学と魔法を使って同程度の水準になっているのだとか。  箱庭では人は生まれながらにスキルを持っている。そのスキルを使って自分の地位を上げて行くのが箱庭のシステム。  スキルは使えば使う程強くなっていく物でもあり、努力をすればそれに応えてくれるらしい。その点はかなり羨ましくはあるが、それでもスキルに優劣があるのではないか? と思ってしまう。 「そうですね、優劣をつけようと思えばあります。でもそれは使い方次第です、自分の力が弱いと思ったその時、初めて優劣が付くのです」  俺の心を読んでそう答える神。それならば、俺のいた世界よりも可視化出来るだけましかもしれない。それに、やったらやっただけ返ってくるなんて、俺からしたらかなりズルい。  更に、重要な施設は全て神の使いが運営しているというのだから場が整えられている。あとはスキルを使い上手く強くなっていくだけだ。  だが問題はその強さの尺度。尺度を図る物は何か……それは従属者の数。  従属者になる方法は色々とあるが、大まかに言うと先ず自ら望んで従属者になる。この人について行きたいと思い契約を行う方法。  そして借金で従属者に落ちる事。  この世界では様々なスキルでお金を稼ぐ事が出来る。例えば闘技場やダンジョンなどで武を振るい稼ぐ方法。研究や技術を認めさせて稼ぐ方法。認めさせる相手は、自分よりも従属者の数が多い人や神の使いでも可との事だ。そのおかげで最低限受け入れの場は造られている。  そのほかにも商人は勿論いる。力の有る人のスポンサーになったりと色々自由度も高い。  そして、スポーツや賭博等様々な施設が備えられており、それらは神の使いが運営し誰しもの活躍の場を提供している。  だが上に行けなければ、心が折れてしまえば、従属者になる可能性が高い。  この世界ある意味人はプレイヤーだ、運営は神が行っている。だからアルバイトなんて物はない。  例えば料理の力を認められたとしよう。俺の世界ならば、同じ料理人の社員を雇用したり、ファミレスなら何人かの資格有る者と簡単な作業を行うバイトを雇うだろう。  しかしこの世界では従業員が必要ならば、最初は運営(神の使い)から借金で従属者を貸し出して貰う事も出来るし、大手の商人に話しを付けて従属者を貸してもらう事も出来る。  勿論お金が稼げなくては運営への借金を返せなくて従属者へと変わるし、商人が見切れば同じことだ。  だからなんでもいいから自分の力を認めさせて、そして従属者を増やして行く。これが箱庭でのシステムらしい。  因みに従属者というのは、無体な命令以外は従属させている者の命令を強制的に聞く事になるらしい。ある意味奴隷も同じか。だが従属者を故意や食事を与えない等して殺した場合は従属者に成るよりも恐ろしい罰が下る。 「そんな世界へ行けと言うのですか?」 「そうです。勿論ある程度の力はお渡しします。人違いで魂を殺し続けたお詫びです」  魂を殺し続けたか。そう聞くとかなり恐ろしい事されてたんだな俺……。 「因みにどんな力なのですか?」 「どんな力がいいですか?」 「選ばせてくれるのですか?」 「えぇ、そこから決めましょう」  ほぉ、これは所謂ちょっと違うがラノベ展開という奴か。  でもそれならあんな思いをしないで転生したかった……。  だが元凶の前でこんなにもどうでもいい事を考えられている次点で異常だな。  さっさと決めて此処から去ろう。  さて能力だよな。ラノベなんかでは鑑定系やアイテムボックスなんてのが有用と書かれているわけだが、俺が行くのは現代っぽい場所で従属者にもつもちがいるからアイテムボックスは排除しよう。従属者は持ってないとやばいみたいだしな。お前めっちゃ弱いなって事だろう?  ……能力か、例えば物凄く早く走れるなんてのでもいいわけだ。なにせオリンピックみたいな大会があればそれで一位を取り続ければいいのだから。だが聞いていた話、かなりお金も重要になって来るだろうし、多分だがかなりの大金で従属者を買う事になりそうな雰囲気だ。  そうなって来るとスキルと従属者よりも、お金をいかにして稼ぐかが重要なのではなかろうか。 「一つ聞きたいのですが、先ほどの賭博は出禁やお金の限界等はありますか?」 「ありませんが、その所得も含めて税金として当人に見合ったお金を運営に払って貰います。勿論従属者の数も考慮します。そのお金は毎月の市民権を確定させる物だと思ってください。市民権剥奪がつまり従属者に成るという事です」  成る程。大金稼いで従属者が増えれば手元に残る金も増えるという事か。本来ならば従属者たちの生活の為の金額なんだろうけど、調整的に持っていた方が得になりそうだな。  それならば、スキルによるイカサマを上回る運というのはいいのじゃなかろうか? 出禁にもならず稼ぎまくれるのでは? 「運その物を上げるというスキルですか。出来なくは有りませんが、それで賭博をして愉しいでしょうか?」 「え? 楽しむためにやるものじゃないと思うのですが」 「素の値を上げるという事は、基本的に賭博以外でも何事も自分の思い通りになるという事です、悪い事は言いません、止めておくことをお勧めします」 「それなら着脱式?」 「まぁそれならいいと思います、では一つは着脱式の強力な運ですね」  一つだけではなくていいのか。取り合えず候補の鑑定系はどうなのだろうか。 「鑑定、他人のスキルを覗き見る行為は出来ません」 「それならいらないですかね」 「研究をしようというのであれば大いに役立ちますが……」  うーん、そこまで研究者として~って事は俺はそこまで興味がないから違うのがいいか。  それならばダンジョンなんかも潜ってみたいから武力か? 聞いた話ゲームみたいに死んだら死に戻りも出来るようだしな。ダンジョンを潜ってみるのもいいだろう。  だがダンジョンに合った武力と言うのはなんだろうか? 正直近接戦が出来るとも思えない、絶対に恐怖で動けなくなりそうだよ。 「それならば後衛職の武力ですね、弓や銃、投げナイフとかでしょうか」  うーん後はやっぱり魔法とか使ってみたいよな。と言っても特にコレといった魔法があるわけでもないけどな。漠然としたイメージでやっぱりあるなら使ってみたいと思うものだ。 「流石に全ての魔法は無理ですね。後衛として武力は魔法にするといいでしょう。そうですね……派手なのが良ければやはり火や雷の魔法が宜しいでしょう。後衛という事を考えると無魔法のようなバッファーを取る事もできますし、回復魔法という手もありますが此方は武力にするのは難しいですね……あぁそれならば盾魔法なんかはいいですね」 「盾魔法ですか?」 「そうです、魔力を使い盾を生み出します。それで相手を抑える事も殴る事も斬る事も出来ます。スキルの熟練度とイメージ次第ですが、派手にしたければ派手な盾を生み出せばいいだけですし、まぁ派手さでは手から雷を飛ばしたり爆発する物と比べると落ちますけど」 「ではお勧めな様ですのでそれをお願いします」 「ではあと一つは経験値取得上昇にしましょう! 人は最大で三つスキルを持つ事が出来ますが、全て実用にするよりはこういったサポートを一つ入れると安定します」 「誰しもが三つ持っているのですか?」 「いいえ、先ずは皆生まれながらに一つだけスキルを持っています。しかし実は偶にですが後天的に生える事があるのです。死への抵抗やどうしてもこれをやりたいという強い願い、そういった物に反応するようになっています。まぁ三つ持っている人は今はいませんね」 「鑑定がないのでばれたりしないですよね」 「従属者に成らなければ大丈夫です。もし主人にスキルを教えろと言われれば、ぺらぺら話す事になりますからね」  それならばやはりお金はかなり大切な要因だなぁ。 「ではスキルはこれでいいとして、容姿はどうしましょうか?」 「容姿?」 「はい、獣人とかにしますか?」 「え?」 「失礼もしかして説明し忘れていましたか。人という中には人間、獣人、エルフ、ドワーフが含まれています」 「種族差があったりするのですか?」 「少しだけありますよ。例えば人間はオールマイティ、獣人は戦闘方面、エルフは研究や魔法方面、ドワーフは商人や工作方面。ですがそれは本当に微力です、基本はスキルの方向性に合わせていくのが常道です」 「なら人間ですかね」 「分かりました、容姿は……なんとなく好みがわかりましたのでそのまま送ります」 「え」 「それでは、この度は本当にご迷惑おかけしました。私の箱庭でせめて楽しく過ごして頂ければと思います」  こんなあっさり行くのか! と叫びたかったが俺は直ぐに意識を失った。

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