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第27話
海だ~~~~~。
という事で、一区を貸し切った島に無事全員で到着した。
ヘイリー先生とイッケイさんの事でごたごたはしたけれども、無事夏の大イベント! 島での一週間生活が迎えられた。
迎えの船は貸し切り代金に含まれているので、豪華なフェリーに揺られて此処まで辿り着いた。
到着した島は無人島という訳ではなく、ショップやホテル、コテージなどが揃っている。
その中でも俺達はコテージが軒を連ねている場所を借りる事になったので、船の中で班分けはされている。一応三人から五人がコテージ一棟に対する適正人数だ。
先ずは荷物を置くので各々コテージへと散らばる。
「コテージ?」
もうちょっと小さな家を予想していたのだが、豪邸だった。
驚きにしばし固まっていると、周囲の特に冒険者と工房組から歓声が上がった。どうやら豪華すぎてテンションが上がりまくっているようだ。
内装もシンプルではある物の、部屋に飾られている絵等は幾らするのか分からないほどだ。ウォーレンが予想の値段を口にしようとしたけれども、俺の精神的な部分の為にも口を噤んで貰う事にした。
さて、一日目到着した今日は夕方まで自由時間である。
夕方からは夏の初めのバーベキューを行う事になっている。ウォーレンにはその調整などを島の管理人や職員と話しに行って貰っていていない。一応俺もホストとしてついて行こうと思ったが、ウォーレンに止められてしまった。主はどっしり構えて楽しめばいいからという事らしい。有難いのでそうさせて貰う事にした。
だが何もしない時間というのは不安になって来るもので、アンドルと共に他のコテージを回って内装を見たりや感想を聞いて回る事にした。
コテージの内装は、俺のところが最も良い造りではあったけれども、他の所もグレードが下がるなんて事は無く、ほぼ同じ造りになっていた。
まぁやっぱり反響が大きいのは入る時に騒いでいた冒険者組と工房組。アルガは既に酒が入っていたので早々に退散してきた。
他のコテージでも酒を飲んでいる奴等はいたけれども、陽気に俺の肩を叩きながらありがとうを連呼してくる人もいてさっさと自分のコテージに戻ってしまった。
コテージに帰り冷蔵庫の中の飲み物を取り出してアンドルと二人で乾杯をする事にした。
「そう言えば、こうやって二人でゆっくりするのは久しぶりかも?」
「そうだな、最近は外に出れてなかったから余計にそうだぜ」
「だよな。なんか不思議だよな、まだ半月くらいしか一緒にいないのに、隣にいるのが当たり前みたいな。時間じゃないって初めて実感したよ」
「俺も自棄になった結果が幸せいっぱいな生活だなんて思ってもいなかったぜ?」
向かい合って座っていたけれども、俺はアンドルが座っているソファーの隣に腰を下ろした。こてりと体重を預けると、アンドルが抱き寄せてくれる。
「俺もだ」
それから、夕方になるまで静かに二人何を話すわけでも無く、ただ互いの温もりを感じていた。
そんな静けさから一転! 日が沈んでもなお照明のお陰で周囲が明るく照らされ、バーベキューを楽しんでいた。冒険者組は騒いで飲んでと愉快にやっているし、工房組は飲んで更に専門用語が多くなって俺には理解が出来ないが、皆楽しそうなので良かった。
あっ、冒険者組がコウセイに絡んで行って砂浜で軽く模擬選をするようだ。それを囃し立てる人もいれば、我関せずでまだまだ肉が焼かれてそれを狙っている輩もいる。
こうして、一日目は過ぎて行った。
二日目、昨日の二日酔いで砂浜で休んでいる人が多数。アンドルはコウセイの稽古を付けに行って今はいない。ウォーレンもまた今日の打ち合わせに行っているので一人だ。
ふらりと砂浜を歩いていると、俺達が到着した船着き場で一人アルガが座っていた。
何をしているのかと近寄ると、お酒を片手に釣りをしていた。コテージにあったらしい。折角なので俺もコテージの釣竿を持ってきてアルガの隣に腰かける事にした。
「……」
「……」
「……キョウガ、これからもよろしく頼むな」
「うぇっ」
思わず目を見開いてアルガを見る。アルガは俺に顔を向けずただ海を見ていた。
だが普段のアルガらしくない真面目な口調でそんな事を言われて、変な声が出てしまった。
「いきなりどうしたの? あーびっくりした」
「こうやってよ、静かに釣り糸垂らしてると色々と思い出してきちまってな」
「よろしく言われなくとも、金が無くならない限り手放す事はない」
「そうか」
ぽつりと呟かれた言葉に、波の音だけが俺達を包む。
「俺らしくねぇのはこれで最後だ。ありがとうなキョウガ」
「うん。此方こそ」
自分らしくないのは最後なんて言っておいて、それからもいつもよりもしんみりとしているアルガに此方の調子が狂ってしまって早々に退散する事にした。
でも、きっと他の人の前では見せたくなかったんだろうな。アルガだし、そんな気がする。
天秤のお陰で出会えた人だけれども、アルガに出会えて俺も良かったと思っている。
……今度は何時か俺が困らせてやろう。そうやって対等に付き合っていくのが、俺はとても心地よく感じるのだから。
釣り竿を返しに砂浜を歩いていると、砂浜に大きく大の字を書いて寝そべっている犬がいた。犬と言ったら失礼か。腹ペコ獣人は俺が近づくとむくりと起き上がる。
「釣りの帰りか?」
「うん、そっちはアンドルとの修行後?」
「おう! やっぱあの人凄いよな、でもお陰で俺も少しずつ強くなって行けてる気がするよ」
「頑張ってるよね」
「まぁな! 俺もそろそろコテージに帰ってシャワー浴びたくてさ、一緒に戻ろう」
「そうだな」
コテージに帰る途中二人で新学期の話をした。大抵テストが心配という内容だったけれども、なんだかいつもよりも少し言いたいことを隠しているように見えた。
コテージが見えてくるとコウセイが立ち止まる。
「あ、あのさ。前にも言ったけど助けてくれて本当にありがとな。それに、俺の事知っても友達でいてくれて、キョウガもシリルも、俺がスキルを制御できてないって暴れたらって避けられるかとも思ってたけど、そんな事なくて、凄い嬉しかったんだ。だから、二人が友達でよかった、だからありがとう。シリルには昨日のうちに言ったけど……やっぱり、その恥ずかしいな」
「俺もコウセイと友達に成れてよかったよ」
「そ、そうか! じゃあ俺先にいくから」
慌てて去って行くその後ろ姿を見ながら、少しだけ笑ってしまった。なんだろうか、青春してるなぁって感じだ。その中に自分がいるという事もまた、とても嬉しい事だ。
にしても、アルガといいコウセイといい今日はいったいどうしたんだろうか。夏は人を変えるって……それは違うか。まぁでもこういう非日常だと、普段思ってても言えない事を言う絶好の機会ではあるよな。そう言う機会に充てられてたりするのかな。
コテージに帰ってから俺もシャワーを浴びて外に出ると、ウォーレンも戻って来ていた。昼食の準備が整ったらしい。本日は皆で造ろうカレー! である。やっぱりこういうイベントの醍醐味というか愛すべきテンプレというか、キャンプのような所に来たら手作りカレーって言うのはどうしたって美味しく感じるだろう!
ぞろぞろとてんやわんやの調理場で楽しく作業をして、出来上がったカレーはまぁ具材の大きさはバラバラであんまりよい見た目ではないけれども、やっぱりこういうのがいいんだよな。
皆も美味しそうに食べているし。勿論事前にカレーが苦手な人がいないかも調査済みだ。大量に造ったので流石に余るよななんて話をしていた冒険者組は、しかしコウセイの食い気に圧倒されてしまった。
落ちないペース、消えるカレー、自分たちももう少しいけるかもとそれに充てられて手が伸びるカレー。そして出来上がる死屍累々にシリルは少しだけ目をそらしていた。彼にも覚えがあるからな。
今日はこれから特に予定が決まっていない。一日フリーなのだ。と言っても皆食休憩で忙しいみたいだけど。なので俺は人が少ない海でアンドルとウォーレンそれにコウセイとシリル、ヘイリー先生とイッケイさんと共に遊ぶ事にした。
先ずは普通に泳いだりボールで遊んだり、疲れてきたら浮き輪に乗って漂う。
日差しが厳しいが気にならない、暑くなったら海に飛び込めばいいのだ。
そうしてくたくたになって夕飯を迎えた。今日は昨日のバーベキュー場でステーキが焼かれる。ジュウと肉が焼かれる音におぉ! という声が上がったりもするが、大体ノリがいい冒険者達だ。あと方々から唾を飲み込むような仕草をしている人達がいる、お昼の食べ過ぎは彼等の頭からは消えてしまったらしい。
三日目、昨日の胃もたれで少しだけ計画を遅らせて、お昼を軽く食べてから今日の計画に移行する。本日は宝さがしである。職員さんが隠したアイテムを沢山持って帰って来た人の勝ちだ。因みに俺は運営側なのでどこにあるか知っている。仮説運営場で待機して見つからなくてヒントを貰いに来た人にそれとなく教えたり、アイテムをカウントしたりするのが役目である。
最初は皆頑張っていたが、だんだんとペースが落ちていく。勿論見つかりやすい所が粗方発見されてしまったのもあるけれども、体力的な問題が大きい。
そんな事を考えていると、俺の後ろにシリルが座りペットボトルを開けた。
「はぁ」
「お疲れ」
「コウセイと冒険者は元気だ」
「まぁ体が資本みたいなところあるからね」
「……キョウガは、なんで俺達の事助けてくれた?」
「うーんまぁ目覚めが悪いのと、折角出来た友人と別れないためかな」
「……やっぱり、お人好しだ」
「そうかな」
「でも、こうなってなかたっとしても、キョウガの友達でいるから、じゃあ探してくる」
言いたいことだけ言って去って行く後ろ姿は、どこかコウセイにも似ていた。
こうなっていなかったら、つまり俺がシリルを雇ったりしていなかったら、本当に普通の学生としての友達だとしても、友達だった。金目的じゃないし、ちゃんと友達だからって事を伝えたかったのだろうけど、口下手なシリルらしい言い方だ。
でもだからこそ俺も嬉しかったりする。
そんな事は分かっている、と言ってもまだ半月の付き合いだ。巧妙に隠されていたりしたら見分けられないかもしれない。でも俺はシリルとコウセイだけは何故だか信じられる気がするんだ。だから、彼が言ってくれた言葉は、コウセイが昨日伝えてくれた言葉も、俺にとっては不覚にも少しだけうるっと来てしまうくらい、嬉しかった。
しんみりしていると時間になった。
因みに今回の宝探しの結果で本日の夕飯のメニューが決まる。勿論極端にひもじい食事にはしないけれども、頑張ったらそれなりのメニューになるわけだ。
俺は勿論好きな物貰ってるけどな!
四日目、本日は皆で海に出ている。今日の夕飯は海で自分達で釣り上げた魚を予定しているからだ!
やっぱり海と言えばこのイベントも外せないよな。クルーザーを五台借りるのは中々の追加料金が発生したけれども、でもこのイベントも俺の中で外せなかったので散財してしまった。後悔は勿論ない。
「おぉ釣れた」
海面まで引き上げると、ウォーレンが網に入れて更に針から取って新しい餌まで付けてくれる。至れり尽くせりとはまさにこの事。釣りの素人が面倒と感じてしまうところを全てやってくれるとは、流石ウォーレン。
「でもウォーレンも楽しんで、折角来たのに仕事ばっかりさせてる俺が言うのもなんだけどさ、休暇なわけだし」
「いえ、私はこうしてキョウガ様に尽くしている時間こそが最も尊く素晴らしくそして楽しい時間なのですよ。それに、好きな方には構いたくなってしまう性ですので」
「それなら、お願いしようかな」
「なんなりと」
ウォーレンは本気でそう言っているのだろうな。なので俺がとやかく言う事も無いし、それにウォーレンに構われるの好きだから、いいんだけどな。
「っと」
そんな事を考えていたからか、少しだけ大きな波で船体が傾きウォーレンに支えて貰う。
「ごめんありがとう」
「いいえ。ですがまた揺れても大変ですし、こうしておきましょう」
そう言ってウォーレンは俺を持ち上げて膝の上に座らせて後ろから固定した。そんなにすんなり持ち上がるのか……流石Aランク冒険者。
「これからもよろしくウォーレン」
「勿論です」
最近いろんな人に素直な気持ちを言われたせいか、俺もふと口をついて出てしまった。
……これは確かに恥ずかしいな。
いい時間になったので島に戻り魚たちは調理人たちに捌かれて行く。その先はお寿司にお刺身海鮮丼にカルパッチョ、様々な料理が作っては直ぐに提供される。やっぱり自分が釣った魚だと思うと、普通に買った魚よりも美味しく感じるな。
五日目。本日はビーチバレー大会である!
二人一組になって戦い、トーナメント形式で勝ち上がりを決めていく。
但し戦闘組とそれ以外は勿論分けての話になる。工房組が冒険者組に勝つのは難しいしね。
一試合ずつやるので、他の選手や負けてしまった人も観戦応援に熱が入る。
俺は一段高くなった仮説のVIP席でパラソルの下飲み物を飲んでいる。俺も参加しようと思ったのだけれども、主催者気分なので参戦ではなく優雅に観戦を選んだ。
ふと飲み物が置かれるが、今迄飲み物を持ってきてくれた人とは違いそちらに目を向けると、先ほどまで戦っていた先生とイッケイさんペアだった。
「お疲れ様です」
「楽しませて貰ってますよ」
「誘ってくれて本当にありがとうな!」
二人も各々飲み物を飲みながら、既に始まっている次の戦いを観戦し始める。
「キョウガ君と会った時は、こうなるとは夢にも思っていませんでしたね」
「まっ、俺様達の企みを知ったら、その後も付き合おうなんて思わないだろうしな普通」
「それは先生とイッケイさんだったからですよ多分。本当にただの先生と生徒なら、俺ももっと違う対応になっていたと思います」
「ありがとうございます、これからは幾らでも手籠めにして下さいね」
「いやいやそんな事しませんから」
「俺様も出来る事があったら言ってくれよ!」
「じゃあ呪いも解けたことですし、子供頑張ってみるのもいいんじゃないですか?」
「……それってプロポーズか?」
「違いますよ! 分かってて言わないでください」
「キョウなら大歓迎だけどなー……それは置いといて、改めて礼を言う、本当にありがとう」
「ありがとうございます、そして――」
「あぁもうそう言うのはいいので! 決着のついてる話ですし」
「ふふ、そうですね。でも私達が本当に感謝し貴方の力になれるという事は、覚えて置いて下さい」
「分かりました」
全く先生も話を蒸し返さなくてもいいのに。
でももしかしたら日常で言うのは、こうなるであろうから控えていたのかな。
先生も非日常に充てられてしまった一人だったか。
ビーチバレーの大会は、工房は意外にもアルガとシリルのペアが優勝、戦闘系はアンドルとウォーレンペアが優勝だ。こっちはある意味ずるにも等しい強さだったから次があるなら俺と一緒にVIP席だな。
六日目、明日は朝には船に乗って帰るから今日が実質最終日だ。
なので夜以外は予定を入れていない。好きに散策するもよし、近くのお土産屋さんで何か買うもよし。
因みに俺は朝起きてからアンドルとウォーレンに甘やかされていた。
勿論いろんな意味で。
既に慣れてしまった3Pは、上の口の下の口も二人のに塞がれて夕方前まで盛ってしまった。
行為が終わった後も二人が俺を挟み込むように抱き着いてくれて俺は目一杯二人に甘えてしまった。自分でもいつもより二人を求めている自覚があったけれども、これが夏の効果なのかもしれない! まぁ幸せだからいいけどな。
夜、今日は宴会だ! 初日と同じバーベキューだが並ぶ食材が一日目とは違う。勿論同じ物もあるけどね。
日が沈み、一服していたところで海から花火が上がる。
これが俺が組んだ最後のイベント、夏の花火。
皆歓声を上げながら楽しんでいる。
俺も、打ち上がる花火に見とれた。
上がっては綺麗に散る花火は、俺の理想の夏休み。
楽しい時間は直ぐに散るけれども、ちゃんと記憶に残っている。
本当の意味で同じ花火は二度と打ち上がらない。今年の夏はあの花火のように一つ々一人々楽しく散って記憶に残っただろうか。
俺は、記憶に残った。
だから――
「来年もまた来よう」
素直にそう思えた。
夏が終われば新学期、またいつもの日常がやってくる。
隣にいてくれる彼等と、新たに仲間になる人と、楽しくて幸せいっぱいに過ごせたらいいな。
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