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第26話

「待ってたぜ! 悪いなこんなところまで」  今日はイッケイさんにケジメとして話したいことがあるから、此処に来て欲しいと言われてタクシーでやって来たのだ。  此処は、綺麗なお墓だ。ゴミも無く山の上に建てられている集団墓地の一つで、しっかりと管理が行き届いている。  イッケイさんについて行き、目的の場所に着いたようだ。  お墓の手入れと御線香に俺も用意していた仏花をお供えさせてもらう。 「今日は命日なんだ」  屈んで手を合わせていた体制から、立ち上がり伸びをしながら呟かれた。  そして次の言葉を発する前に、後ろから声が掛けられた。 「おや、先に来ていたのですか」  聞き覚えのある声に振り向くと、そこにはよく見知った顔がいた。 「先生」  そう、まさかのヘイリー先生である。 「兄貴もお参りしなよ」 「兄貴!」  思わず声を上げてしまった。いやいやいや全然似てないんだけど!  俺の心の中のツッコミを見越したように二人が苦笑いに変わる。 「似てないですが、本当に兄弟なのですよ」  アンドルとウォーレンと共に顔を見合わせて、互いになんともいえない気持ちを共有する。  その間に先生はお墓にお参りを軽く済ませて、イッケイさんと並ぶ。  そして二人して俺達に頭を下げた。 「申し訳ありませんキョウガ君」 「キョウ、騙してて悪かった」 「え?」 「実は、カジノで会ったのは偶然なんかじゃねぇんだよ。ずっと待ってたんだ」 「えっと、どういう?」 「キョウガ君も知っての通り、私達には天使の血が流れています。ただ便利なスキルであったならばよかったのですが、力が発覚して祖父母と色々ありまして、そちらの復讐は済んでいるのですが、その後天使に言われたのです」 「俺様達はこの力があるせいで子供が出来ないんだ」 「それを伝えに来た天使に伝えられました、この呪いを解く方法を」 「もしかしなくても……天空杯の優勝? そんなバカな」 「あぁ俺様達もそんなバカなって思ったぜ。だが相手さんは本気だった、それが奴らの親玉の願う所らしい。だから俺様達は二手に分かれた、偶然かそれともそれも見越してか、キョウの知っての通り俺様にはカードゲームに置いて他よりも力があった」 「そこで、私が強いスキルを持つ者を探し、協力者になって頂けそうならばイッケイに教える。その間イッケイには上級市民になって貰いました」 「それでコウセイを助けに行ったときにお眼鏡にかなったという訳ですか?」  俺の力を知って調べてみれば俺がカジノを使ってるのは分かるはずだ。変装はしていたけれども、前も思ったがそこまで確実に身バレを防いでいたわけじゃない。ちゃんと探ればきっと俺達の事だと分かっただろうし、コウセイの時にある程度力はばれているから、イッケイさんにそれを伝えたのか。  それで中流になってカジノに行くことも予想できるから、きっとイッケイさんかその使いの人かがずっと見張っていたのだろう。そして姿は当てにならないからやらかしてるビギナーを見つけて接触したら見事に当たり、なんとか協力してもらって見事呪いが解けたという事か。  ……うーん、なんというか上手く乗せられたというか。全く気が付かなかった。確かにとんとん拍子な感じはしたけれども、いかんせんアルガの時の事もある。もしかしたら天秤の効果なのかな、なんて考えていたけれどもどうやら全然違ったようだ。  なんだろう、確かに上手く乗せられて利用させられたわけだけれども、そんなに憤りを感じない。多分自然過ぎて後悔が無いのが一つと、あるとすれば先生が俺の能力を他人に教えた事くらいだろうか。正直騙したな! って気分にはなれない。  よくよく考えたら、それって俺に不利益が無さすぎるせいかもな。もっと例えばアンドルが実は営利目的で俺に言い寄っていたとかだと多分滅茶苦茶悲しくなって精神的に多大なダメージを受けるんだろうけど。正直そこまで仲良くなってるわけでもなく、金銭的に何かされたわけでもなく、逆に子供欲しくて出来ないなら確かに悲しいよなって同情もある。  アンドルとウォーレンを見ると二人とも複雑そうな顔をしていた。 「……あんまり怒ったり悲しんだりはしませんが、それでも」  そう、どんなに害が無くてもやられたことを考えればいいよって許す事は出来ない。  一応、それくらいの事はされているわけだ。 「分かっています。どのような要求も出来る限り叶えるつもりです」 「あぁ俺様も勿論」 「……と言った手前ですが、うーん、何を貰えば。アンドル、ウォーレンいい案ないかな?」 「そうだな、やられたことは結構悪質な事だぜ? それなりの物にはあるだけどな、いきなりパッとは思い浮かばないな」 「そうですね、流石に私も少々難しい問題だと思いますので、此処で決めずにもっと慎重に話合われるのが宜しいかと思います」 「確かに」  場の雰囲気で直ぐに決めようとしてしまったけれども、ウォーレンの言う通り別に今すぐ決める必要も無いんだよな。それならば一旦持って帰ってちゃんと五人で考えるのがいいか。  という事で、その日はそれでお開きになった。  家に帰り、このなんとも言えないもやもや感を三人で共有しながら、今日はいつもよりも豪華なご飯にして少しでも気晴らしにすることになった。  にしても、まさかって感じだよな。先生が教師をやっているのも、俺みたいなのを見つける為だったんだろうな。でも教育者としての先生が全て嘘という訳でもないと思う。もしスキルを育てたいだけならあんなに心配してくれる事も無いだろうしな。いや、俺が大会に出られなくなると困るから? と思わないでもないけれども、きっとそうは思いたくはないんだろうな。それならそうでいいじゃないか。  その後、幾日か話し合いが続けられて、結局お互いにこれと言った物もなく、ずるずると時間だけが過ぎていった。  そして、それに疲れた五人は、先生の案を採用する事にした。  先生の案は、先生が俺の従属者という本来ならば重い罰を受ける代わりに、イッケイさんは見逃すという事だった。  本来ならばと言うのは、アンドルやウォーレンを見れば俺がその辺の主人に比べて随分ましだと知っているからだ。だがそれでもアンドルやウォーレンにしてみれば普通は重い事らしい。  そんな事を言う二人にはジト目を向けておいた。  だって説得力の欠片もないからな。  なにせそれが分かっていてカジノで適当やって従属者になった男と、どうしても夢諦めきれずに従属者になった男だからな。  それが分かっているので二人とも目を逸らす。  とまぁこれ以上いい案が出る事もないので、その案を採用する事になった。と言っても先生はそのまま教師を続けて貰って、俺から学校に先生を働きに行かせているという肩書が加わるだけだ。後日嘘を付けないようにしてから聞いた話、はやり先生は先生としてちゃんと心配してくれていたそうだ、良かった。 「そう言えば先生の性癖って実はスキルを探すための口実なんですか」 「えぇよくわかりましたね」 「……兄貴これから従属者になってばれるんだから、そんな流れる様に嘘つくなよな。兄貴のそれは元からだぜキョウ」  という一幕があったが、まぁきっと従属者になろうと先生は先生のままでいて欲しいとは思う。変に罪悪感を持たれて接せられると、俺が辛い。  でもその心配は杞憂に終わり、偶に会う先生はいつも通りの先生だった。多分俺の気持ちを汲んでくれているのだろう。イッケイさんも見逃すとはなったけれども、彼なりにそれだと申し訳が無いからと中級市民についてや上級市民についてのあれやこれやをレクチャーしてもらう事を頼んだ。  しばらくすると天空杯も大衆人気のジャンルの優勝者に目が行き、俺の事はそこまで目立たなくなったので、前よりは外にも行ける様になった。それでもばれるときはばれるけどな。

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