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第8話

-伊我利比女命(いがりひめのみこと)-  寝取りくんはボクの足を舐めていた。ぴちゃりぴちゃりと下品な音をたて、ボクの足の指を一本ずつ丁寧に舌を這わせ、口に含む。柔らかく生温かい感触がくすぐったくもあった。 「君にプライドは無いのかな?」  親指と人差し指の間を舐められている時その舌を挟んでみた。はしたないけれど、たまにはいいだろう?寝取りくんは答えない。こういう時ばかり彼は上品ぶる。泥棒猫の寝取り野郎のくせに。 「人様のお人形さんは奪るし、お尻に入れとけとあれだけ言っておいたスティックバイブもペニスプラグもゴムバンドも外してしまうし。…痛いのをご所望かな?」  眼鏡を外させた目がボクを小生意気に見上げた。でもきっときちんと輪郭は捉えられていないのだろうね。 「タフで結構だけれどボクはSMはやったことないよ」  舌先を足の指で摘まんだままだった。寝取りくんは犬みたいに両手両足を床につけている。 「案外、気持ちいいだけのほうが嫌なタイプ?」  舌先を引っ張る。気に入らないな。とにかくこの寝取りくんが気に入らない。 「ほら、粗末な陰茎を出して。ボクに見せてごらん」  舌を引っ張られた間抜けな姿のまま寝取りくんは首を振る。学ばない。頭が悪い。まだ自分の立場が分からないのかな。 「人様のものは奪る、碌に言い付けも守れない。それで飼い主の言うことも聞けないのかな」 「虎太郎さんは…ものじゃない…!」  ボクの指から舌を引き抜いて反抗的な態度を向けらて、背筋がゾクゾクっとした。いいな、と思った。気に入らないと同時に面白いなと思った。 「寝取り野郎が偉そうだね?君は彼の何?」 「…と、…もだち…」  声が小さくなって、よく聞こえなかった。友達?本当に?情夫ではなく? 「ボクの姉は彼を本気の本気で気に入っていたんだ。それなのに君は…」  寝取りくんは眼鏡外しているからきっとボクの顔なんて見えていないのだろうけれど、顔を逸らして俯いた。それが似合ってるよ、惨めに下を向いているのが。 「彼が友達?よく言うね?友達は屋上であんな甘ったるくキスしないもの。それとも君の生きている文化圏はそうなのかな?挨拶の延長だった?それなら失礼したね、知らなかったとはいえ他人の文化を侮ってしまった。その部分については誠心誠意を以って謝ろう。だがこの辺りの生活文化とは…なかなか合わないだろう?ただのキスならとにかく、追い込んで腕の中で甘やかなキスなんて」  寝取りくんは顔を上げなかった。苛立つ。寝取りくんの顎を掴んで上を向かせる。小さな唇を見つめる。 「嫌だ!」  その唇を塞ごうとして床に着けていた手がボクを拒む。 「キスは…嫌だ…っ」 「ふぅん?」  乱暴に顎を掴み直して唇を奪う。弾力があって程良く湿って柔らかい。よくある唇。べちん、と掌がボクの顔を打った。最低で最高だよ。誰にも殴られたことがない顔。美しい、綺麗、器量が良いとよく言われていた。顔だけ良くても仕方ないのだと教養を身に付けて、それから出来るだけ品行方正を貫こうと思ったけれど、ボクの顔を軽視するならその必要もないね。 「君って嫌な人だね」  潤んで泣きそうにボクを睨み付けてくる。 「でもあのお人形さんは放っておかないんだ?」  ボクはもう一度顎をしっかり掴んで口付ける。がぢっと音がしてボクの唇は熱くなり、痛みへと変わる。 「なるほど」  鉄の味と独特の甘みを舐めとった。 「そんなに安くねぇぞ…ってことでいいのかな。少し甘やかし過ぎたようだ」  寝取りくんの肩をつかんで床へ乱暴に倒す。ベルトを外してスラックスと下着を力任せにずり下げた。 「やッ」 「いやではないよ、きっとヨくなる」  細長いが奇妙な形状の丸みを帯びた部分とそこから蔦のように弧を描きながらくねる部分のある白い器具を出す。濡らす必要を感じなかった。労わる必要なんてもうない。ボクは逃げ惑い情け無く露出した尻を掴んで、ぐいっと突っ込んだ。 「あうゥッ、ぐ…」  そうつらくはないはずだけれど。少し腫れている粘膜がくぽくぽ白く滑らかな器具を咥え込んでいる。もうひとつ細長い器具を取り出した。イエローの長いストローのようで先が二股になっている。尿道カテーテル。もう壊してしまってもいいよね。陰茎を力強く鷲掴む。 「やめて、痛っ…」 「動かないで。ぐちゃぐちゃになりたくなかったら」  少し強めに脅して、潰すように掴んだ情けない陰茎の先の穴に尿道カテーテルを挿し込んでいく。 「ひっ、ぎ…ッあっぁぐ、っく、」 「動かないで言ったでしょう?」  びくっ、びくって寝取りくんの身体が効果音つくみたいにのたうって滑稽だった。亀頭の先から形の違う2つのシャボン玉のストローのような物が生えている。 「やだ!抜いてっ!やだやだ、抜いて!抜いてぇ!」  泣かれるのはいいけれど、喚かれるのは好きではないかな。黙れとばかりに首へ手を回す。 「抜い…て…やめて、怖い…」 「ボクは君のほうが怖いよ。周りの男を誑かす魔性の男?違うよね、実際は貧相な淫乱だ?泥棒猫?サカりのついた雌犬?どちらかな?」  首に手を回しながら問う。許せない。プリザードの邪魔をしたことなんて些末な事で、それよりも芽依さんのお人形を奪っただけでなく、嵐丸ちゃんの純情を弄んで、宇佐木ちゃんの忘れられない人だってことがボクを苛立たせる。嵐丸ちゃんをどう惑わしたのかな。宇佐木ちゃんの忘れられない人だったのにどうして姿を現さなかった。何故芽依さんのお人形奪るの。 「ああッ、んんんん、やだ、なに、なん、でぇ…!」  寝取りくんはボクを見ていたくせに突然腰を揺すりはじめた。思ったより早かった。入れておけばそのうち快感が襲うという前立腺マッサージ器具。 「やっだ、おしりやだ…あっああ、こわれ、る、おひりこわれっぇああっ!」  寝取りくんは悶えた。腰が勝手に跳ねて、背中を丸めて、手足が震えている。苦しくも痛くもないはず。 「あっあんん、だめ、やだ、あっンッあっ、アっ」  尿道カテーテルを挿れられて芯を無理矢理貫かれていた陰茎がむくむく膨らんで、腫れているように見えた。 「んっ、ンン、あっ、はぁん、はっ、んっんっぁ」 「惨めだなぁ。本当に。哀れになってしまう」 「たす、っけて…ぁんっ…ッ」  尿道カテーテルのストローみたいな口からとろとろ液体が漏れ出ている。床にぽたぽた滴った。 「助けて?君は誰に逆らっていたのか理解していなかったくせに?それは虫が良過ぎはしないかな。…君の身体なんて壊れたって構わないのだから」 「はっ、ぁんっ、くぅ、んんんッ、あ…」 「お人形さんも嵐丸ちゃんも宇佐木ちゃんも、きっと次を見つけるよ。ああ、お人形さんは芽依さんのところに戻らなければならないけれど…あの2人は可哀想だ。若い時分を君みたいなどこにでもいる代替品に賭けてしまって。君は最低だよ」  腫れ上がった陰嚢の後ろにコックリングを嵌める。中に尿道カテーテルが入っているから少しきついかな。 「あぎぃっあひっ!やぁ…あっ、あああ、ゥンんっ」 「ねぇ、誰か呼ぼうか。学園の便所になる?ねぇ、ボクはとても怒っているんだよ。とても、とても。ねぇ、ボクは君のそういう姿を写真に撮ってもビデオに録ってもいいわけだ。でもそうしないのは、それがとても下品だからだよ。ボクが美学にこだわってやらないだけで君を脅す手段なんていくらでもある。忘れないでおくれよ」  立ち上がったボクの脚に下賤な手がしがみつく。ストローの口からとろとろと薄く濁った白い液体が水っぽく溢れている。 「最低だよ君は。最低だ」  快感と苦痛で聞こえてなどいないのだろう。快感に蕩けた顔がボクを誘おうと必死に見上げている。 -Tigar and CDD-  またあの2人組みが図書館の読み聞かせ広場におった。ボキは気にせずもうすぐ読破する棚から絵本を選び取る。 「ごめんね、ありがとう、急な呼び出しだったのに。じゃあ」 「そんな~とんでもなぁい。きもちよかったぁ。けんた縫斗せんぱいだぁいすき。ばいばいですぅ」  芽依の弟はボキに気付いて軽く会釈して行きよった。不気味。図書館に送迎しとるのか。猿渡とかいうボウズなかなかやるな。

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