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俺には最近、少し…いや、かなり気になる人がいる。
そいつは今年から同じクラスになった、見た目も素行も不良そのものな根津 という男だ。
根津は有名人だった。脱色した髪は荒々しく立てられていて、制服の学ランなんてもはや自分とは同じものだとは思えない状態になっている。どこそこの高校のやつらと喧嘩して病院送りにしただとか、原チャでパトカーに追いかけられていたとか、一年の頃は三回停学になったとか…そういった話は以前から俺も耳にしていたのだ。
しかし、それはやはり真面目な自分とは違う世界の話で、噂話を聞きこそすれ、俺は別に根津に興味はなかった。だから二年に上がって入った新しい教室の中に彼の姿があっても、「ああ、同じクラスなんだ」としか思わなかったし、関わるつもりはまるでなかった。
それが新しいクラスの初めての席替えで、たまたま隣の席になってしまった。友人たちにはついてないな、とたくさんの慰めの言葉をもらった。確かに俺も少し怖かったが、根津は無差別に暴力をふるったり絡んだりしてくるやつではない――学内で暴力行為に及んだことはない、と聞いていたので、こちらから近付かなければ大丈夫だと思った。
しかし、俺が近付かずとも、隣になった次の日から根津はやたらと俺に話しかけてくるようになったのだ。
「お前、名前なんて書くんだよ」
第一声はそれだった。話しかけられたのにまず驚いた。ちなみに授業中だった。でも先生は注意してこない。どうやら先生も根津を恐れているようだった。
「え?名前は幸村 だけど」
「んなの知ってんだよ馬鹿。漢字を教えろって言ってんだ!」
ますます俺は驚いた。まさか根津がホームルームで行われた、クラスみんなの自己紹介をちゃんと聞いていたとは思わなかった。しかしなんで、漢字を知りたがるのだろう。
不思議に思いながらも、俺は根津が差し出してきた紙切れに己の名前を書いた。
それを受け取った根津はどこかほこほことした様子で、自分の鞄から本を取り出して開いた。その本には『姓名判断~名前で解る!二人の相性』と書かれていた。
俺は何となく気になって、根津の様子を眺めていた。すると、しばらくして本を閉じた根津は暗い顔で俺に「お前、改名しろ」と言ってきた。そんなこと急に言われてもできもしないし、俺は親に授けられた今の名前を気に入っている。
だから「無理だしヤダ」と素直に答えると、その後根津はどこか拗ねた顔で一日を過ごしていた。
その翌日、今度は誕生日と血液型を聞かれた。またも授業中だった。
答えると、根津は前日と同じようにほこほこした様子で鞄から本を取り出した。しかし、その表紙に書かれている言葉は前日と違い、『星座・血液型☆相性占い』だった。
ペラペラ本を捲っていた根津は、すぐに暗い顔になった。前日同様暗い雰囲気のまま俺を睨みつけながら、「お前、血液型O型に変えろ」と言ってきた。
「できるわけないだろ」
当たり前のことを答えると、舌打ちをして不貞腐れた顔で黙り込んでいた。
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