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第1話

 宙に浮く感覚が我が身に起こった事とは思えないぐらいだった。  それに、鈍い痛み。骨へ直に伝わってくるような熱さ。  おそらく、骨を折ったのだろう。  折れていない筈の手にも、足にも不思議な程、力が出なくて、立ち上げる事はできなかった。  陣内の視界には力の入らなくなった腕がある。胴体とは繋がってはいるようだった。  それから、暫くして、陣内は駆け寄った人に謝りながら、身体を起こしてもらった。救急車が来て、腕を固定されて、ストレッチャーに乗せられる。  何だか、全てがおかしかった。  逢坂に弄ばれたり、柚木に好きだと言われたりするのとは違った意味で。  本当に我が身に起こった事ではないようだった。  多分、悪夢を見たという事もあり、あまり良く眠れなかったのだろう。  病院へと搬送される救急車で揺られ、名前や住所といった事を質問される。その受け答えをしているうちに眠くなってしまう。 「……の方も来てくれるらしいですからね」  誰が、の部分は良く聞こえなかったが、陣内の両親は既に存命していない為、「ご家族」ではないと陣内は思った。  もしかして、「ご親戚の方」ということで、叔父さんのところに連絡が行ったかも知れない。 「すまないね……」  と葬式を終え、謝る叔父さんに、陣内は自分こそ謝らなければならなければと思った。  自分さえいなければ、母を亡くしたことをもっと悲しむことができただろうに。  そんな思いもあって、母の四十九日を終えると、陣内は一時的に身を寄せていた叔父の家から出た。自分で安いアパートも借りる。幸い、母親の残したお金で大学ではなく、専門学校へ、なら学校へ行きながらでも暮らせそうだった。

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