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第5話
陣内がバイクの事故に遭って、数日間が過ぎていった。
トラックとの接触事故だったにも関わらず、陣内もトラックの運転手もその怪我は軽症の部類だった。特に、陣内は道路に飛ばされたらしいのだが、右腕の骨折に、右足へ軽いひびが入ったぐらいだった。
ある意味、運が良かった。
「先生、今日は早朝会議だったんじゃ……」
「あ、今日はね、休んだんだよ」
逢坂は1日に1回、こうして、会いに来てくれる。
特に、話をする訳でもない。花を持って、病室に訪れた。花の事はよく分からないのだが、白くて、良い香りのする花を持ってきてくれた。日によって、その花が高価そうな菓子箱や面白そうな本やバイクの雑誌に代わっていたが、逢坂の表情は硬いものだった。
よく見れば、彼は少し痩せたのではないだろうか。
元から細身ではあったが、陣内には何だか、弱っているように見えた。
「先生、大丈夫ですか?」
陣内は思わず、そんな事を口走っていた。正直、会いに来てくれるのは嬉しい。
しかし、笑顔が消え、辛そうに見える彼の顔が辛かった。
「ああ、朝だからね。君が知っているかは分からないけど、俺は朝に弱いんだよ……」
力なく笑い、花瓶の水を換えに行く逢坂。その逢坂をずっと見ていた。今は彼の背中を見ているしかできないが。
陣内は病室に1人、残されると、あの時の事を思い出した。
あの時。それは、逢坂のマンションへ初めて過ごした朝の事だ。
「あの時と状況は似ている……」
録音機の件で、逢坂のマンションに留まった。
だが、本当にそれだけで逢坂の元にいたのだろうか。それに、あの時は……。
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