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15 目撃者 康介

 竜が俺が勧めたバンドを気に入ってくれたみたいで凄く嬉しかった。にこにこと楽しそうにしている竜の姿も貴重で、正直誘い方もちょっと強引だったかな? なんて心配したけど、ライブに連れてきて本当によかった。  そう、初めはそう思ったよ。でもまさかこんな事になるなんて思ってもいなかった。  ライブが終わり控室に行くことになって、俺はわくわくして控え室に入った。みんなが気さくに話しかけてくれて、俺は憧れの人達に囲まれて舞い上がっていたんだ。この時はもう自分のことばっかで、俺は竜のことまで気が回っていなかった。少しすると、周さんが竜の事に気がついて、いきなり竜を抱き寄せた。  びっくりした……  周さんと竜が顔見知りだったのにも驚いたけど、周さんの行動があまりにも強引で、竜だって他人とこんなに近くで接した事なんてないだろうからきっとびっくりしていると思って心配した。そのあと打上げに向かう道中も、気付いたら竜は周さんに肩を組まれて歩いていた。  竜の顔から笑顔が消えてる。  竜は人と接するのが苦手だし、ましてや身体が触れ合うようなスキンシップなんて今までほとんど無かったんじゃないかな。大丈夫かな? 心配だけど俺だって周りが初めましての人ばかりだから声を掛けにくかった。  打ち上げの店に着いても周さんは竜にべったりだった。竜はというと、何か考え事をしてる表情を見せたり、ボーッとしたり。きっと色んな事を目まぐるしく考えているのだろう。竜の心情を思ったら居た堪れなくなる。 「あの、周さんっていつもああなんですか? スキンシップが凄いというか……」 「ん? ああ、そうだな。周ってさ、男でも女でも気に入ったやつにすぐベタベタするんだよ。最初は俺も被害にあったし。でも俺ん時は陽介にぶん殴られてからなくなったけどね」  俺は隣に座っていた圭さんに聞いてみた。周さんはそういう人なんだとわかったところで目の前で困った様子の竜を助けてやることはできない。それに俺の兄貴が周さんをぶん殴ったということの方が俺にとって衝撃で、そこのところ詳しく教えて? と圭さんに食いつきたくてしょうがなかった。  あの兄貴が? あの周さんを?……いやいや、それはないだろう。あの体格差だぞ?  ふと見ると、周さんと竜が部屋から出ていくのが見えた。トイレかと思って俺も後をついていく。竜の様子も見られるし、大丈夫かどうかの確認がしたかった。  俺は竜たちと少し遅れてトイレに入る。  そこで目に飛び込んできた光景に、俺は言葉を失った。  周さんが竜にキスをしている? 嘘だろ? ……いや、嘘だろ??  驚きすぎて俺は何もできず、そのまま逃げるように部屋へ戻った。 「お、康介くん おかえり」 「………… 」  圭さんが話し掛けてくれるけどどうしても動揺を隠せない。なんと言っていいのか言葉が出ず、黙り込んでしまった。  ふと前を見ると、いつのまにか周さんが戻ってきていた。そして少し遅れて真っ赤な顔をした竜も戻ってきて、手招きされるまま、また周さんの胡座の中におさまった。

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