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胸がギュッと……

志音が屋上にきたあの日から、ちょくちょく一緒についてくる。正直志音がいると僕はなんだか落ち着かなかった。 修斗さんは気さくに志音と喋ってるけど、周さんは明らかに機嫌が悪そうだし、康介もちょっと様子がおかしい。 その微妙な空気を察して、とうとう修斗さんが話し出した。 「ねえねえ、なんで志音君はお昼ここに来るの? 周はいつもこんなんで感じ悪いだろうし、竜太君はめっちゃ人見知りだし、……あ、そうか!志音君は康介君と仲良しさんなのかな?」 周さんは僕の隣に腰掛け、修斗さんの話には興味なさそうに僕の髪の毛を弄ってる。 「康介君と仲良し……っていうか、先輩達がかっこいいからご一緒したいんですよ、俺は」 ……なんか、やだ。志音が周さんたちを見る目が嫌だった。何が嫌かって、それは何かははっきりとはわからない。 何? 胸の辺りがギュッとするんだ。もしかしたら志音が周さん達と仲良くなってしまったら……と気にしているのかもしれない。どんな嫉妬心だよ、僕…… 「またまたぁ、志音君てばお調子くんなんだから!物凄いお世辞見え見え!志音君の方がかっこいいでしょ? 全くもう、嫌味だなあ」 修斗さんが笑って志音の背中を叩いている。 「いやいや、お世辞なんかじゃないですって。先輩達のバンドの人気も凄えし、あ!勿論皆さん彼女いるんすよね? ああ羨ましいなあ」 「いや、そんなのいねえし!どんだけ嫌味なの志音君」 修斗さんと志音がさっきから二人で盛り上がっている。周さんと康介は全く無関心。 「なら、俺が周さんや修斗さんの彼氏に立候補しちゃおうかな。俺、お二人なら全然オッケー……なんて、俺、男でしたね。へへ……残念!俺が女なら良かったのになあ」 黙って聞いていた康介が口を開く。 「志音、調子乗りすぎ……なんなの? お二人なら全然オッケーって。ちょっと先輩達に失礼じゃね?」 康介、珍しく怒ってる。志音はきっと冗談で言ったんだよね。修斗さんだってそんなに気にしてないと思う……でも僕もちょっと引っかかってしまった。康介が怒っている「お二人ならオッケー」のくだりではなく、「俺が女なら──」の部分に…… 「まあまあ康介君、大丈夫よ? 気にすんなって」 冗談通じてるし怒んなよ、と修斗さんが康介を宥める。康介はブスッとしてしまって面白くなさそう。 僕はと言うと、やっぱり胸の辺りがギュッとしてモヤモヤして、思わず隣に座ってる周さんの服の片隅を握ってしまった。 「あ、俺 今日仕事あるんで早退ね。周さん、修斗さん、お先に失礼しますね」 突然思い出したかのように志音はそう言うと、さっさと屋上から出て行ってしまった。 「……いったいあの子は何がしたいんだろうね?」 にこにこしながら、修斗さんは言う。 「え? 修斗さんや周さんと仲良くなりたいんじゃないですか?」 今までのやり取りを見て、志音は周さん達と仲良くなりたくてここに来てるんじゃないの?そう思って僕はそう言ってみた。 「いや、なんか違うと思うんだよなあ……」 修斗さんは、わっかんねえな、と首を傾げる。 制服の片隅を握ったままの僕の手を離し、握り直してくれた周さんが「暇なんだろ?」と興味なさそうに話すのを聞いて、僕のなんだかわからない胸のギュッとしたモヤモヤは薄れていった。

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