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第1話
「センセイさぁ……」
「ん?」
「助けてくれたのはいいんだけど、何で僕に股がってんの」
「……はは」
次の五時間目の美術の授業の為に教室を移動する際、忘れ物をしたのを思い出し戻った僕は、クラスメイトから少し遅れ一人廊下を歩いていた。
三階の人通りの少ない長い廊下を歩いていると、男子トイレからするりと現れた人物に腕を掴まれ、そのまま個室トイレに誘われた。
嫌な予感……
えーと……誰だこいつ?
……なんか今日は朝からイヤな予感がしたんだ……
予想通りムードもへったくれもない男子トイレで、先輩野郎から告白された。
勿論丁重にお断りをさせてもらったんだけど、なかなかひいてくれないし、身体は触ってくるしでやれやれどうしようかなぁと思っていたら、偶然入ってきた先生に助けてもらったんだ。
まだ若い社会科の先生で、眼鏡をかけた草食系男子。
大丈夫?気分悪くないか?とか色々気にかけてくれて優しい先生じゃんと思っていたら、トイレの向かいにある小部屋に連れていかれて何故か抱きしめられていた。
あれ?
なんだ?
気がついたら冷たい床に優しく押し倒されていて、僕に馬乗りになってるその先生は僕のワイシャツのボタンを外しにかかっていた。
……えーと……
「ねぇ先生?これってイケナイことなんじゃ。イヤーン僕……こんな経験ないから……恥ずかしい」
「……そんなこと言って……前に保健室でシテたの知ってる」
「……え、なぁんだ。バレてるの……んー何?あれ先生見てたのかぁ……興奮した?」
「見てたよ。……興奮……した。あれは君の本命?」
「……なわけないじゃん」
「私は前から見てたよ。宮ノ内 のこと」
「センセイ何歳?」
「28だけど」
「ふーーん」
そう言いながら、はだけた僕の胸を手のひらで控え目に触る仕草はぎこちなくて、あんまり上手くない。
ベルトをカチャカチャ外すのに焦ってるし手間取ってて、逆にこっちがイライラしてきてしまう。
なんだよ、手際悪くてつまんない。
できれは次の授業受けたいし、ここで解放して欲しいんだけど。
目の前で一人焦ってるアホ先生に、しおらしく指先で首筋に触れた。
できるだけ可愛く見えるように、首をちょこっと傾げながら、ごろにゃんと先生の顔を両手で挟み色っぽく見つめる……
「ねぇ先生……あのねぇ。僕次の授業どうしても受けたくて……この続き……また今度でもいい?駄目?」
「え!え!う、うん!!」
「ありがと。先生ネクタイ曲がってますよ。はい、じゃまたね……」
ネクタイを直しながら至近距離で色っぽく囁くと、先生の眼鏡が一気に曇った。
効果はてきめんだ。
母親譲りの美顔が恐ろしく感じる。
そしてまた今度はないと思いますよ先生!
そう脳内で叫びつつ、廊下を小走りする僕だった。
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