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第五話

     「──だからっ、泊めねーっつったろ!」  筧の吐き出した言葉に、耳を塞いで知らんぷりを決め込んでるこのイケメン。 「俺、ソファでいいんで、お構いなく」 「コラ、勝手に寝んな! 俺が構うんだよ!!」  居酒屋を出た時点で時間が早かったこともあり「家飲みしましょう!」という、今思えばこいつの陰謀をという名の提案を断わり切れなかったのがそもそもの間違いだった。 「スーツ肩凝るんで、何か着るもの貸して下さい」と言われ、厚意で言うことを聞いてやれば、その恩を仇で返すかのようなこの仕打ち。すっかり寛ぎモードでソファに寝転がり、完全にこのまま寝入る体勢。 「なぁ! マジ帰れって」 「ヤダ」  ヤダ、とかこんな自分より図体のデカイ男に言われたって可愛くもなんともない。 「──だから、なんで俺に対してこんななんだよ、おまえはー!」  ちょっと優しい顔すりゃ、これだ。  社内一の爽やかイケメン。人当たりが良くて、仕事も覚えが早くて、上司の受けもいい“優秀”な部類のこいつが自分にだけ見せるこの暴君ぶり。誰よりも面倒みてやってる俺だけが、なぜこんな扱いを受けなきゃならんのだ。 「……ちょ、マジでっ! きーみーじーまー!!」  ソファに寝転がっている君島の傍にしゃがみ込んで敢えて耳元で言った。 「煩いです」  君島が心底うるさそうに顔を歪めて筧を見上げた。  先輩に対して煩いとか言うか、普通? しかし、顔歪めててもイケメンってのがまた小憎らしい。 「おまえ、何か俺に恨みでもあんの? 扱い酷くね?」 「そうですか?」 「あきらかに、他の奴らと態度違うじゃねぇか」  そう言うと、君島が少し考えるように間を空けた。 「しいていえば──」 「何だよ?」 「構って欲しいからすかね?」 「──は?」 「鈍いな。まだわかんない? さっき言ったじゃないですか。狙ってんのいるんで、って」  ニヤ、と笑った君島を唖然と見つめ返す。 「……はぁっ!?」  狙ってる──って、それ俺かよっ!?  筧はあまりの衝撃に言葉を失い、思いきり間の抜けた顔で床に尻持ちをついた。 「いや。待て! マジ意味分かんねー! 何をどう間違えば、そう言うことになるんだよ?」 「べつに、なにも間違ってないですよ」 「つか、どこにそんなフォーリンラブ的な要素が!?」 「興味持ったのは俺と真逆なトコっすかね? ガッチガチに“鎧”で自分を隠して、コッチ側の人間だってことは億尾にも出さない。その“鎧”ひん()いて、中身暴いて、組伏せて、俺の下でヒィヒィ言わせてーな……みたいな?」  ──こ、怖っわっ!!  相変わらず王子様みたいな綺麗な顔で、もの凄くゲスで恐ろしいことを口走るこの男。  引き攣り顔のまま筧はゆらりと立ち上がり、君島を見降ろした。 「何なの、おまえ。マジ怖いんだけど」  相変わらず君島はソファに寝転がったまま筧を見上げている。 「おまえなら俺じゃなくても他に相手山ほどいるだろーが」 「俺、好きになった一人の男にじっくり愛されたいタイプなんで」 「──だからってなんで、俺!? 俺は確かにゲイだけど、おまえみたいなのは好みじゃねぇし、そもそもネコじゃねぇ!!」  そう。ここ最重要事項! おまえの優秀な頭のメモリーに、よぉくメモっとけ、君島。 「──つか。マジいいかげん帰れ」  再度仕切り直し。 「ケチくさいこと言わないでくださいよ」 「ケチくさいとかそういう問題じゃねーんだよ。おまえが、俺にそーゆー気があるなら尚更帰れっての」  ソファの背もたれに脱いで掛けられた状態の君島のスーツやらシャツを、掴んでヤツの腹に押し付けた。 「まだ。分かんないじゃないですか。今は好みじゃなくても、好きになるかもしれない。付き合えないって決まった訳でもない」 「……変に食い下がんなよ」  君島は特別悪い奴じゃない。けれど、それと色恋事はまた別物だ。 「食い下がりますよ。俺、諦め悪いんです。絶対落とします」 「……どっから来るんだよ、その自信は。やっぱ顔面偏差値最高級だからか?」 「はは。まぁ、容姿にはそこそこ自信あります」 「なんっか、腹立つわー」  基本、悪い奴じゃない。でも、ナイ。この性悪イケメンとどうこうなる、などと。  君島が、筧が貸した服を脱いで自分のシャツに袖を通した。  着痩せするタイプなのだろう。スーツの時には想像もつかない鍛えられた胸板。引きしまり適度に割れたカタチのいい腹。思わず見惚れてしまう。  顔だけじゃなく、身体もイイとか、おまえみたいなヤツは爆発してしまえ。 「俺の身体、けっこう好みですか?」 「くだらねーこと言ってないで、さっさと着替えろ!」 「筧さんの、そういう目。好きですよ」 「……っるせーな! その生意気な口塞ぐぞ」  筧が君島の顎を掴むと、ヤツが余裕の笑みを返した。 「それ、誘ってます?」 「誘ってねぇよ!!」  顎を掴んだままのその手にさらに力を入れると「痛ててっ」と君島が顔を歪めた。それから、今度は君島が俺の手頸を掴んで言った。 「今日は、引きさがりますよ、大人しく。強引に行って嫌われたら元も子もないんでね。──でも、それなりのアプローチはしていきますから」  スーツに着替えた君島が、筧の手を掴んだままそこに指を絡めた。流れるような自然な動きに抵抗する隙も与えられず、唖然としながら君島の顔を凝視する。 「筧さん」  低く甘さを伴った俺を呼ぶ心地よい声。  その絡め取られた指はゆっくりと君島の口元に引き寄せられ、そのまま指に口づけられる一連の動作がまるでスローモーションのように見えた。  

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