2 / 8
第1話
俺、前川稑 は、『DOLCE de COTTA』の雇われオーナーをしている。
店名の DOLCE de COTTA の COTTA は、Panna cotta から取っていて、前オーナーが名付けた。
パンナコッタ…それは俺の得意なスイーツであり、大切な人の好物でもある。
ーーー『店の名前、いいだろ?ウチの大切なパティシエちゃんが幸せになれますように…てな。前川にとって、パンナコッタは特別。違うか?』ーーー
改装が終わり、オーナーから店を引き継いだ日に言われた言葉だ。
この店は、昔イタリアンレストランだった。
オーナーの松岡さんとシェフの柊さんをはじめ、スーシェフに見習い、ホール担当にソムリエ…そしてパティシエの俺で回していた。
もう7年も前の事だ。
今は、雇われの俺がオーナーを務めるパティスリーに姿を変えている。
店内は、イタリアンレストランのオシャレで落ち着いた雰囲気を残しつつ、ショーケースに並べられたスイーツが甘い香りでお客様を包み、ジャズとボサノバが流れるイートインスペースは、都会の雑踏を忘れてゆったりとした時間を過ごせる空間を演出している。
「前川さん、そろそろcloseしていいですか?」
厨房にひょっこり顔を出したのは見習いの小林刻 君だ。
童顔で身長が低くて可愛い印象に、誰からも好まれる素直で明るくて優しい性格、心配になるくらい純粋な子だ。
小林君は、有名なショコラトリーで働いていた経験があって、とても頼りになる。
なにより俺では思いもつかない斬新なアイデアを提供してくれるから、俺自身の勉強にもなる。
「もうそんな時間か。早いな。close作業よろしく。あと、アルバイトさん先に帰してあげて。厨房は俺が片付けとくから。」
「りょーかいです。」
パタパタと小林くんが遠ざかる音がした。
ゴム手袋を外してゴミ箱に投げ捨ててからシンクで手を洗った。
冷蔵庫からパンナコッタの入ったカップを1つ取り出すと、ケーキ用の白無地の箱に詰めた。
流石に毎日というわけにはいかないが、たまにこうしてお菓子で還元してる。
大学生のアルバイトさんを二人雇ってて、書き入れ時以外は1日置きに来てもらってる。
ともだちにシェアしよう!