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第十七話

 傷つけてしまった。  神足が斑目を。神足はすぐに服を着ると、靴を履き、斑目を追いかける。  追いかけたところで何が言えるだろう。  でも、追いかけないといけないと神足は思う。 「あ……」  神足が斑目を追いかけようと部屋を出て、ドアを開けると、斑目は意外にも部屋の前にあたる廊下にいた。身体を預けていた壁から背中を離すと、神足の方へと歩み寄る。 「先生……僕……」  斑目は何か言葉を発する訳でもなく、神足に近づき、神足の顔を見つめていた。  神足は斑目とは反対に何かを言わないといけないのに、何も出てこない。 「すみません……僕、先生に……」  神足が斑目に詫びなければならないことは沢山ある。  まず、「気持ち良くない」と言ってしまったこと。斑目がもしも、繊細な人物であれば、2度、誰かを愛せなくなっても不思議ではない。  次に、冨手の代わりに斑目を好きになってしまったこと。これについては微妙ではあるものの、もし、冨手をずっと好きでいられたのなら、斑目を必要以上に傷つけなかったのだ。  それに、冨手と斑目を間違ってしまったこと。斑目を冨手と……いや、他の誰かと間違ってしまうなんて、神足としてもあるまじきことだった。  だが、それら以上に…… 「ごめんなさい、先生のこと……好きですが、好きになっちゃあだめ――」  神足は何も言わない斑目に長々と謝ると、斑目は神足の謝罪をもう良いと言わんばかりに神足を抱き締めた。 「あぁ……」  息ができないと思う程、強く。  まるで、神足の身体が握り潰されてしまうのではないかと思う程、激しく。  ひとしきり、斑目は神足を抱き締めると、神足を抱き締める手を弱め、神足の耳に小さく声を落とす。 「俺は良いヤツじゃないから、貴方を彼に返すことはできない。あと、どんな手を使っても神足さんに振り向いてもらえるなら構わない」  そう言うと、斑目の視線は神足から離れる。神足から離れ、ピタリと止まるその先にいたのはかつての同級生で、かつての恋人で、現在、行方が分からない冨手だった。 「と、みて……」 神足は足の力が抜けてしまうと、斑目は部屋のドアを開ける。神足の細い身体を担いで、部屋に入ろうとする。その間際、冨手の方を一瞥する。  それはこの世のものとは思えない程、冷ややかで、美しい目をしていたという。

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