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第十六話(R18)

「あ、先せ、んっ……」  ベッドのスプリングが程よく揺れて、班目の指が神足の髪や耳を撫でるように触れる。ジャケットやシャツといった衣服は剥がしていって、神足の身体はベッドシーツの滑らかさを享受していく。  だが、神足自身は何かに怯えているように快楽に身を預けることができなかった。 「大丈夫。今日は最後までするつもりはないから。気持ち良くなるだけ」 「気持ち、良くなるだけ……」  班目の意思表示に神足は安堵とも不安とも感じたのか、拙く反芻するのみになってしまう。すると、班目は「そう」だと優しく答えて、神足に選択権を渡す。 「それに、さっきも言ったように、嫌ならそこにあるペンで俺の手を突いても良い」  ペンというのは、よくホテルのベッドサイドに備えつけてあるメモ用紙に添えてある万年筆のことだ。神足は電気スタンドで鈍く照らされた金色の万年筆の方を見るまでもなく、首を振る。  神足の胸には色んな言葉が去来して、消えるが、何を思うも、神足が班目を止めなければ、班目の手は汚れてしまう。 「せんせ……い。まだらめ、せんせ、い」  怯える口調とは裏腹に、追いすがるように斑目を見つめる神足。  本当は欲しかったのかも知れない。  斑目の手も、心も、何もかもが。 「あぁっ」  班目は神足の着ていた服をボクサーパンツの1枚まで全て脱がし終えると、神足の陰茎を含む。神足の身体がベッドへ沈んでいくが、追いかけて逃がさないと言わんばかりに舌先で愛撫し始める。 「んっ……」  そんな班目に神足はこれ以上、甘い声を出しそうになるのを無意識に抑えて、弾力のある枕を掴んで顔を押し当てる。 「っ……っ……」  刺激され、快楽でどんどん硬くなってしまった蕾を柔らかくするように。  班目の舌は神足の腰の動きに合わせて動く。 「こおたり、さん。こお……」  神足と呼ぼうとして、班目の声が途切れる。神足の心は既に冨手から班目に移っているのに、身体の習慣というのは恐ろしい。 「コウ」  冷たさのある男の声に、冷たく見下ろされる目。  神足はその瞬間、身体が快楽という熱いものではなくて、恐怖とか、トラウマとか冷たいもので震えて、止まらなくなった。 「きもち……ぃ」 「神足さん?」  ただならぬ様子の神足に、班目は口から神足の陰茎を離す。確かに班目の愛撫で硬くなっていた筈のそれは体液を零すことなく、萎えていた。 「気持ち、良くない……」  神足は虚ろな目のまま、震える唇を動かす。  何を言っているんだろう。  誰に言ってしまったんだろう、と神足が思った時には既に言葉が班目の耳に届いてしまっていた。 「神足さん……(それ程、あの人のことが……)」  班目は神足の身体を覆うように掛布団をかけると、部屋を出ていく。  あの神足が酔い潰れた時とは違い、班目は何も言わず、顔を背けて、出て行ってしまった。

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