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第56話

遮光カーテンだけが開かれたままで、閉じた白いレースカーテンが月明かりでぼんやり蒼白く光っている。 ……夢…… 安堵の息が漏れる。 多分、あんな夢を見たのは、この光のせいかもしれない。 「……震えてんぞ」 ハイジの指先。それが、僕の横髪に触れ、耳に触れ、肩に触れ、脇腹に触れて……そのまま腹を撫でるように滑り下りる。 ぎゅっと背後から抱き締められ、ハイジの温もりに包まれる。 「怖い夢でも、見たのかよ」 ハイジの匂い。熱い息。 お腹に回った右手が、僕の右手を見つける。その甲を優しく包み、指間に指を差し入れ、きゅっと握る。 「……ううん」 「じゃあ、何だよ」 「………」 その温もりは、僕を安心させてくれた。 僕の事情を知らない筈の手なのに、大丈夫だよ、と言っているようで。 胸の奥にある柔らかな所が、ぎゅっと締め付けられる。 ……ハイジ…… 堪らなく目を閉じる。 瞼の裏……そこに、容赦なく映し出される、先程の光景── ぽろっ……ボト、  ぐちゃ。 血に濡れて…… それでも僕を助けようと、懸命に手を動かすアゲハ……… 「………オレの、せいか?」 溜め息混じりの声。 何処か虚ろげで………弱々しい声。 「そんなに、怖ぇか……オレが」 何処か諦めた様な、哀しい声。 繋がれた手が不意に解かれ、布擦れの音と共にハイジの温もりが消えていく。 ″ ………なんで…… なんで助けたオレを、そんな瞳で見るんだ………!! ″ 瞬間、脳裏に幼いハイジの叫び声が聞こえたような気がした。 ……違う…… 違うよ……ハイジ。 ハイジの方へと向きを変え、その温もりを追いかける。 腕を伸ばし、ハイジの背中を捉えると、遠慮がちに身を擦り寄せた。

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