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第59話

指の動きが、止まる。 そして、申し訳無さそうに離れていく。 「……これ、外してぇよな」 憂いを含んだ声。 吐き出す息も何処か震え、怯えているような気がした。 「でも、これは……さくらを守る為に付けたから。外す訳にはいかねーンだよ」 「……」 心なしか、微かに声まで震えていて。気付けば、頭の天辺から足の爪先まで、全てが震え戦いていた。 不安。恐怖。──そんな感情が、ハイジからひしひしと伝わってくる。 「いつ、またお前の首絞めちまうか、わかンねーから……」 それに気付いたのか。 それとも、その時の光景を思い出したのか。 不意に、ハイジが突き放すように僕との距離を取る。 「………ごめん。オレ、怖ぇよ…… スゲェ怖ぇ……もう、傷付けたくねぇんだよ……」 『オレ、さくらを失いたくねーよ……』──僕の首を絞めた手を離した時に見せた、不安に満ちた瞳と重なる。 ……そう、だったんだ…… 圧痕を隠す為とか、支配する為とか……そんなんじゃなかった。 『……ハイジはよォ……俺らをよくここに呼び集めて、これと同じ首輪(わっか)をしたオンナを輪姦させてんだぜ』 太一が言ってた事とも、違う。 そもそも、初恋の人がされた行為を、ハイジが他の人にやらせる訳がない。 この首輪は、ハイジなりの回避の仕方。 僕を壊さない為の手段。 「………ハイジ」 僕達は、何処か似てる。 相手を傷付けてしまう事に、こんなにも怯えて…… 怖ず怖ずと手を伸ばす。 その指先がハイジの袖を捕らえ、しっかりと握りしめると、距離を埋めるようにハイジに再び擦り寄った。 「離れないで」 掠れた、小さな声。 顔を埋めていて見えない筈なのに、ハイジの戸惑う様子が手に取るように解る。 緊張。不安。 なんで今更、緊張なんかするの? 怯えながら抱いたくせに。 心を探るように触ったり、キスしてきたりした癖に。 「ギュッて、して……」 催促する様に、袖をくいっと引っ張る。 「………いい、のかよ」 「うん……」 酷く戸惑った、弱々しい声。 小さく頭を縦に振ると、緊張したようにハイジが小さく喉を鳴らした。

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