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第60話
緊張して僕に触れて来ないハイジが、何だか可笑しくて。可愛くて。……愛おしい。
見た目も性格も、全然違うのに。僕達は、何処か似ている。
指先を少し広げた手のひら。それが、僕の背中にそっと当てられる。そこから手の形通りに、熱いくらいの想いが、僕の心の奥まで浸透していく。
……ドクン、ドクン
呼吸をする度、お互いの心音が速くなっていき、やがて──シンクロする。
二つの身体が溶け合って、混ざり合って。一つに融合されたような……何だか不思議な気分。
あったかくて、気持ちいい……
葉の隙間から零れ落ち、ゆらゆらと揺れる陽だまりの中、背中を丸め気持ち良さそうな顔で眠る猫になったよう。
ぽかぽかして。心地良くて。穏やかな気分。
……離れたくない。
もう少し、このままでいたいよ……
袖を離し、ハイジの脇に差し入れた腕を背面へと回し、手のひらをそっと背中に当てる。
今、ハイジが僕にしているように……
……ドクン、ドクン
ああ……このまま、本当に溶け合えたらいいのに──
すぅ、とハイジの匂いを胸いっぱいに嗅ぎ、柔く瞼を閉じる。
どれくらい経ったのだろう……
一瞬、眠ってしまったような気がする。
指先が甘く痺れて、気持ちいいほど気怠い……
ドクン、ドクン、ドクン……
心音が、少しずつズレていく。
やがて重奏から輪唱へと変わるにつれ、じわじわと現実を帯びていく。
「……あのね、ハイジ」
「ン……?」
口を開いた途端、耳奥に声が響き一気に微睡みから覚める。
伸びた日陰に陽だまりを取られ、寒さで目を覚ました猫の様に。ひたひたと迫る陰りに、背後から熱を奪われていく。
「ハイジと別れた後、僕ね………」
『オレと離れてから、今までどうしてたんだよ』──口にしてから僕は、この質問に答えようとしている事に気付く。
手に力が籠もり、ギュッとハイジにしがみつく。
そんな僕を安心させるかのように、ハイジの手が優しく背中を撫でてくれる。
「………約束通り、家に帰ったんだよ」
瞬間、あの時の光景が鮮明に蘇る。
古びた貸家の玄関前。
僕に気付いた母が嫌悪を露わにし、蔑んだ目を向けながら拒絶。
「でも、全然駄目だった。……母は、僕を憎んでいるから」
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