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第59話

緊張して、僕に中々触れて来ないハイジが……何だか愛しくて、可愛くて。 なんか、可笑しい。 見た目も性格も、全然違うのに。 僕達は……似ている。 ハイジの少し広げた右手のひら。 それが、僕の背中にそっと当てられる。 そこから手の形通りに、熱いくらいの想いが、心の奥にまで浸透する。 ……ドクン、ドクン 呼吸をする度、お互いの心音が速くなり やがて……シンクロする。 二つの身体が溶け合って。 混ざり合って一つに統一されたようで……何だか不思議…… あったかくて、気持ちいい…… 眩い程の陽だまりの中、背中を丸めて気持ち良く昼寝をする猫みたいに………穏やかな気分…… ……ぽかぽかして……心地良くて…… 離れたくない。 ……もう少し、このままで……いたい…… 袖から手を離し、ハイジの脇に手を差し入れて、背後に腕を回す。 そして、ハイジが僕にしている様に、静かに左手のひらを背中に当てた。 ……ドクン、ドクン すぅ、とハイジの匂いをゆっくりと嗅ぎ………緩く瞼を閉じる。 ああ……このまま溶けて ハイジの体の一部に、なってしまいたい…… それから、どれ位経ったのだろう…… 目を閉じてから、一瞬でも眠ってしまったように感じる。 指先が甘く痺れて 気持ちいい程、気怠い…… 心音が、少しずつズレていく。 やがて重奏から輪唱へと変わり、じわじわと現実が帯びてくる。 「……あのね、ハイジ」 「ン……?」 口を開いた途端、夢見心地から覚める。 陽だまりに日陰が伸び、寒さで目を覚ました猫の様に……ひたひたと陰りが背後から迫り、僕から熱が取り払われていく。 「ハイジと別れた後、僕ね……」 ″オレと離れてから今まで、どうしてたんだよ″ 口にしてから僕は、あの時の答えを話そうとしているんだと気付いた。 手に力が籠もり、ギュッとハイジにしがみつく。 そんな僕を安心させるかの様に、ハイジの手が優しく背中を撫でてくれた。 「………約束通り、家に帰ったんだよ」 瞬間、あの時の光景が鮮明に思い出される。 ボロい貸家の玄関前。 僕だと気付いた途端、蔑む様な目を向け、僕を拒絶した母…… 「でも、全然駄目だった。……母は僕を憎んでいるから……」

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