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第60話

産婦人科の分娩室で僕を出産中、駆け付けようとした父が交通事故で亡くなった。 僕が全ての元凶………愛する父の死に目に会えなかった。その深い悲しみは母の心を蝕み、見る度にその事を思い出してしまう僕を、殺してしまいたい程憎んでいた。 物心ついた時から、母から蔑まされてた目を向けられていた。 どうして僕には、優しく微笑んで……抱き締めてくれないの……? 淋しかったのを覚えてる。 おばあちゃんが、母の代わりに僕の面倒を見てくれた。だけど、放任した母を決して咎めたりはしなかった。 ″ お母さんを、許してあげて ″ きっと、僕の面倒も母の為。 僕よりも、母の方が大切な存在だったんだと思う。 少し大きくなって、初めておばあちゃんから聞かされてから、僕は自分の存在を呪った。 ……僕のせいだ。 僕が産まれたから、父が死んじゃったんだ。 だったら僕は、産まれてこなければ良かったんだ……そう何度も何度も自分を責めた。 母に殺されたって、仕方がないんだって。 ″ これは、運命なんだよ ″ ……そう、おばあちゃんは言ってた。 でも、運命なんて全然違っていた。 おばあちゃんは、知ってたんだと思う。 何故母が僕の首に手を掛けたのか…… 「何でそこまで、さくらが憎まれなくちゃなんねーんだよ」 溜め息混じりに、ハイジがそう吐き捨てる。 僕のために不機嫌になったんだと感じ、ハイジの背中に当てた手にギュッと力を籠める。 「……それは………僕が、若葉の子供だから……」 そう、小さく呟く。 ……瞬間、ハイジに二の腕を強く掴まれ勢いよく引き剥がされる。 「……ハァ?!」 目を見開き、眉間に皺を寄せ 信じられないといった表情を僕に見せた。 「……若葉が……母をレイプして……産ませたのが、僕……」 「……マジかよ」 僕だって……信じられなかったよ…… でも、それなら辻褄は合うし、腑に落ちる。 目を伏せ、ハイジを視界から追い出す。 若葉は、組長になるかもしれないタイガって人の……オンナ。 そして、父を殺した犯人…… アゲハの頚動脈を切り裂き、血の付いたバタフライナイフを握り締め…… 心乱れる事もなく僕を追いかけ、捕まえて殺そうと…… 背筋に悪寒が走り、ブルッと体が震える。 そんな人の血が半分、僕の体内(ナカ)に流れている…… ……僕もいつか 若葉の様になってしまうんだろうか…… 自分の目的の為に、誰かを犠牲にして…… 傷付けて、例え殺しても厭わない。 サイコパスみたいな人間に……

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