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第62話
「……マジか……」
言葉と共に吐き出される、ハイジの溜め息。そこに拒絶の色は感じられないものの、僕とハイジの間を簡単に隔てた様な気がした。
「……」
あれだけハイジと心が重なり、精神が一つに混ざり合ったような感覚がしたというのに……
淋しさが募り、ピクリと指先が痙攣する。
「……さくら」
それを感じ取ったのか。ハイジの手が僕の腕を辿り、手の甲を見つける。そして、温かく包み込むようにして、震える指先をそっと握る。
……トクントクントクン
さっきの心音よりも速い、ハイジの心音。それを追いかけるように脈動する、僕の心臓。
……不思議と、先程感じてしまった溝が埋まっていく。
「お前……何処までも、オレと似てンな」
ギュッと、その手に力が籠められる。驚いて視線を上げれば、ハイジのそれとぶつかった。
「……」
穏やかな双眸。だけど、ハイジを纏うオーラが色濃くなっていき……犬歯を見せる程に口角を持ち上げ、やんちゃな笑顔を見せる。
「さくらには悪ぃけど。スゲェ嬉しい、っつーか」
「……ぇ……」
「笑うなよ。初めてさくらを見た時、オレ、ビビッてきたンだよ。……あ、コイツだ! って。
だけど。あんな乱パ目的みてぇな所で、んな事有り得ねぇ……」
「……」
「ンな奇跡みてぇな事、ある訳ねぇって思うだろ。フツー」
興奮したように、ハイジが捲し立てる。
その言葉の数々が、さっきの僕の告白とどう繋がるのか……さっぱり解らない。
「──やっぱオレら、運命だったんだよ!!」
じっと見つめていれば、眼をキラキラとさせたハイジが発作の如く僕を引き寄せ、ギュッと強く抱き締める。
「そうとしか、思えねぇ……」
僅かながら冷静さを取り戻したらしい。興奮し、乱れていた呼吸が次第に整っていく。
それでも、まだ昂る感情に浸っているのだろう。僕の後ろ髪を愛おしそうに梳く。
「実は、オレもさ。……母親がレイプされて産まれた子なんだよ」
「──!」
思ってもみない告白に驚く。
再びハイジを見上げれば、ここではない何処か──遠い記憶を辿るような眼で、ぼんやり一点を眺めていた。
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