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第61話

「……マジか……」 言葉と共に吐かれるハイジの溜め息。 そこに拒絶の色は感じられないものの、僕とハイジの間を簡単に隔てた様な気がした。 ……あれだけハイジと心が重なり、精神が一つに混ざり合ったような時間を過ごしたというのに…… 淋しさが募り、ピクリと指先が痙攣する。 「………」 「……さくら」 それを感じ取ったのか……ハイジの手が僕の腕を辿り、震えた僕の指先を見つけた。 そしてその手を、ハイジの熱い手のひらが優しく包み込んでくれる。 ……トクントクントクン さっきの心音よりも速い、ハイジの脈動。 それを追いかける、僕の鼓動。 ……先程感じた溝が、不思議と綺麗に埋まっていく。 「何処までもお前、……オレと似てんだな」 その手に、ギュッと力が籠められる。 驚いて瞳を上げれば、ハイジと視線がぶつかった。 その瞳は何処か穏やかで……だけどハイジを纏うオーラは次第に強くなり…… 犬歯を見せる程に口角を吊り上げ、やんちゃな表情を僕に見せる。 「さくらには悪ぃけど……スゲェ嬉しいっつーか……」 「……え」 「笑うなよ。………初めてさくらを見かけた時、オレ、ビビッてきたんだよ。 ……あ、コイツだ!って。 でも、乱パみてぇなゲイパで、んな事有り得ねぇ」 「………」 「んな奇跡、ある訳ねぇって思うだろ、フツー」 興奮したように、ハイジが捲し立てる。 その言葉の数々が、さっきの僕の告白とどう繋がるのか………僕にはさっぱり解らない。 「やっぱオレら、運命だったんだよ」 目を合わせたまま押し黙る僕を、瞳をキラキラさせたハイジが発作の様に引き寄せ、ギュッと強く抱き締める。 「そうとしか、思えねぇ」 「………」 興奮し乱れた呼吸が整っていく。 少しだけ、冷静さを取り戻したらしい。 それでもハイジは何処か感情に浸っていて、僕の後ろ髪を愛おしむ様に梳き撫でる。 「………実はオレもさ、母親がレイプされて産まれた子なんだよ」 「……!」 思ってもみない告白。 驚いて首を擡げ、ハイジを見上げた。 少し尖ったハイジの視線は、真っ直ぐ先……でも、ここではない、何処か……遠い記憶を辿るように眺めていた。

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