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第63話

当時高校一年だったハイジの母親は、友達と別れ一人で下校中、同じ学校に通う生徒──地元では有名な不良に襲われ、レイプされた。 その場で一回。そして、脅されホテルに連れ込まれて二回──計三回。 有無を言わさず乱暴されたという。 「相手は、かなりむしゃくしゃしてて。憂さ晴らしできンなら、相手は誰でも良かったみてぇでよ。 ショックと恥ずかしさで、誰にも打ち明けられずにひた隠してた結果、腹が膨れちまって。周りにバレて。 そん時にはもう、中絶できねぇ時期に入っちまってて……産むしかなかったらしい」 親にも、学校にも知られてしまったハイジの母親は、浴槽内で手首を切って自殺を図った。 発見した親によって救急搬送され、一命は取り留めたものの無気力状態となり……その後の心療内科受診でPTSDと診断された。 学生の身分である事。例え家族からサポートを受けたとしても、育児は極めて困難であるとの診断が下り……産まれた子は、直ぐに乳児院へと移管(まわ)される事に。 『……オレ、生まれてすぐ病院から乳児院って所に預けられて』──ハイジがそう言っていたのを思い出す。 「……ってのを、オレを毛嫌いしてた施設の職員から、散々聞かされてよ。 何処まで真実(ほんとう)なのかは解らねぇけど。……でも、嘘じゃねぇのかもなって」 「……」 「オレ……カッとなると自分でも訳解んなくなっちまうだろ? そういう時──母親をレイプした男のDNAが、オレの体内(なか)で暴れ回ってんのかなって、思うんだよ」 ハイジが僕から手を離し、手のひらを広げてじっと見つめる。そして徐に、その手をギュッと強く握り締める。 「……」 犯罪に巻き込まれて、生まれてしまった命── 僕と、同じ。 親から望まれ、祝福されてこの世に誕生した訳じゃない。 ──ドクンッ、 そう思ったら、大きく波打つように心臓が跳ね上がる。 「……ハイジ」 少し乱れる呼吸。速くなる鼓動。 手を伸ばし、ハイジの握り拳にそっと触れる。 ハイジの手。 色んな感情を抱えた手…… 拳が、柔く解かれる。 その手を取り、誘導するように引き寄せ………指先を、僕の唇に軽く当てた。

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