64 / 558

第64話

驚いた様に、その手が直ぐに引っ込められる。 「……おま、」 「え……」 驚いてハイジを見れば、僕から視線を直ぐに外し、頬を赤く染めていた。 それにまた驚き、ハイジを真っ直ぐ見つめる。 「無意識かよ……」 「……」 赤い顔のまま、ふて腐れた様に口を尖らせる。 ……無意識、だったのかな…… でも、意味も無くやった訳じゃない。 ハイジを凄く近くに感じて、前よりも愛しさが込み上げて…… そしたら……もうこれ以上、誰かを容赦なく傷付けて欲しくないと思ったし、自分を責めて、怯える姿も見たくないって…… もし、僕という存在が少しでも救いになるなら……いいな、って…… 「……ったく。誘ったのはお前だからな」 言い終わるか終わらないかのうちに、ハイジの片手が僕の肩を強く押す。 「……!」 仰向けに転がされ、その上にハイジが素早く跨がる。 と、サラサラと白金色の横髪が流れ落ちた。 こんな状況なのに。やっぱりハイジの髪は、綺麗だな……なんて見とれてしまう。 僕を見下ろすハイジの瞳。 その瞳は何処か雄っぽく、だけど涙を含んだように熱く潤み、小さく揺れる。 「………」 「……ハイジ?」 僕を見下げたまま……ハイジの右手が僕の左頬を優しく包み、親指の腹で僕の下唇をそっとなぞる。 「キス、……していいか?」 熱く吐かれる声。 しかし、何処かまだそこには戸惑いが含まれていた。 「何で、そんな事聞くの……?」 「……もうしねぇって、言っちまったから」 ハイジの口から出た言葉に、僕はつい、クスッと顔を綻ばせる。 「なに笑ってんだよ」 「……だって。タクシーの中では聞かなかったから」 「あっ、あれは……その……」 ハイジの頬が、みるみる赤く染まっていく。 視線も定まらず、呼吸も乱れ、何処か落ち着かなくなってしまった。 「………いいだろ、別に」 「うん」 照れながら誤魔化すハイジが、可愛い。 愛しくて、どうにかなってしまいそう…… キラキラと光る白金の髪にそっと手を伸ばし、指を絡める。 「……いいよ、して」 唇を小さく動かした後、薄く瞼を閉じる。

ともだちにシェアしよう!