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第63話

驚いた様に、その指先が直ぐに引っ込められる。 「……おま、」 「え……」 驚いてハイジを見れば、僕から視線を直ぐに外し、頬を赤く染めていた。 それにまた驚き、ハイジを真っ直ぐ見つめる。 「無意識かよ……」 「………」 赤い顔のまま、ふて腐れた様に口を尖らせる。 ……無意識、だったのかな…… でも、意味も無くやった訳じゃない…… ハイジを凄く近くに感じて 前よりも愛しさが込み上げて…… そしたら、もうこれ以上……誰かを容赦なく傷付けて欲しくないと思ったし 自分を責めて、怯える姿も見たくないって…… もし僕という存在が、少しでも救いになるなら……いいなって…… 「……ったく、誘ったのはお前だからな」 言い終わるか終わらないうちに、ハイジの右手が僕の肩を強く押した。 「……!」 仰向けに転がされ、その上にハイジが素早く跨がる。 と、サラサラと白金色の横髪が流れ落ちた。 ……こんな状況なのに、やっぱりハイジの髪は綺麗だな……なんて見とれてしまう。 上から見下ろすハイジの瞳。 その瞳は何処か雄っぽく、だけど涙を含んだ様に熱く潤み、小さく揺れる。 「………」 「……ハイジ?」 僕を見下げたまま………ハイジの右手が僕の左頬を優しく包み、親指の腹で僕の下唇をそっとなぞる。 「キス、……していいか?」 熱く吐かれる声。 しかし、何処かまだそこには戸惑いが含まれていた。 「何で、そんな事聞くの……?」 「……もうしねぇって、言っちまったから」 ハイジの口から出た言葉に、僕はついクスッと失笑してしまった。 「なに笑ってんだよ」 「……だって、タクシーの中では聞かなかったから」 「あ、あれは……その、」 ハイジの頬が、みるみる赤く染まっていく。 視線も定まらず、呼吸も乱れ、何処か落ち着かなくなってしまった。 「……いいだろ、別に」 「うん」 照れながら誤魔化すハイジが、可愛い。 愛しくて、どうにかなってしまいそう…… キラキラと光る白金の髪にそっと手を伸ばし、指を絡めた。 「……いいよ、して」 唇を小さく動かした後、薄く瞼を閉じる。

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