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第64話
驚いた様に、その手が直ぐに引っ込められる。
「……おま、」
「え……」
驚いてハイジを見れば、僕から視線を直ぐに外し、頬を赤く染めていた。
それにまた驚き、ハイジを真っ直ぐ見つめる。
「無意識かよ……」
「……」
赤い顔のまま、ふて腐れた様に口を尖らせる。
……無意識、だったのかな……
でも、意味も無くやった訳じゃない。
ハイジを凄く近くに感じて、前よりも愛しさが込み上げて……
そしたら……もうこれ以上、誰かを容赦なく傷付けて欲しくないと思ったし、自分を責めて、怯える姿も見たくないって……
もし、僕という存在が少しでも救いになるなら……いいな、って……
「……ったく。誘ったのはお前だからな」
言い終わるか終わらないかのうちに、ハイジの片手が僕の肩を強く押す。
「……!」
仰向けに転がされ、その上にハイジが素早く跨がる。
と、サラサラと白金色の横髪が流れ落ちた。
こんな状況なのに。やっぱりハイジの髪は、綺麗だな……なんて見とれてしまう。
僕を見下ろすハイジの瞳。
その瞳は何処か雄っぽく、だけど涙を含んだように熱く潤み、小さく揺れる。
「………」
「……ハイジ?」
僕を見下げたまま……ハイジの右手が僕の左頬を優しく包み、親指の腹で僕の下唇をそっとなぞる。
「キス、……していいか?」
熱く吐かれる声。
しかし、何処かまだそこには戸惑いが含まれていた。
「何で、そんな事聞くの……?」
「……もうしねぇって、言っちまったから」
ハイジの口から出た言葉に、僕はつい、クスッと顔を綻ばせる。
「なに笑ってんだよ」
「……だって。タクシーの中では聞かなかったから」
「あっ、あれは……その……」
ハイジの頬が、みるみる赤く染まっていく。
視線も定まらず、呼吸も乱れ、何処か落ち着かなくなってしまった。
「………いいだろ、別に」
「うん」
照れながら誤魔化すハイジが、可愛い。
愛しくて、どうにかなってしまいそう……
キラキラと光る白金の髪にそっと手を伸ばし、指を絡める。
「……いいよ、して」
唇を小さく動かした後、薄く瞼を閉じる。
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