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第143話
僕がそう聞けば、奴の顔が赤くなったり青くなったりした。きっと、奴の中で何かと葛藤しているんだろう。
そんな彼の様子を見ながら、僕は小さな溜め息をつく。
今のは、言い過ぎたかも。……性悪だな、僕。
「いいよ、別に助けてくれなくても」
「……」
「それより。ここって何? さっきの部屋にいた人達は?」
僕の質問に、男がハッとする。
まだ混乱してるのか。戸惑いの表情を見せながらも、思考の迷路からは抜け出せたようだ。
「……え……?」
視線を泳がせながら、口籠もる。
「金持ちの年寄りから、お金を……その……」
「……」
「……つまり、オレオレ詐欺……だよ」
最初こそもごもごとしていたが。やがて観念したのか、オブラートに包む事無くハッキリと答え始める。
「さっきいたのは『掛け子』といって。裏で買った名簿を使って、片っ端から電話しまくってる人達だよ」
「……ふぅん」
一目でまともな所じゃないとは思ったけど……
そういえば、ハイジはクスリを捌きながら、詐欺の受け子をしていたって言ってたっけ……
「マニュアルを駆使して、言葉巧みに上手く騙して、『受け子』が金を回収しに行く。……それらを纏めている人が、箱長である『菊地』さんだ」
「……」
『菊地』──龍成がお世話になったという、半グレ。
……どんな感じの人だろう。
吉岡は、性欲モンスターって言ってた。
その人に抱かれた後、僕はちゃんと解放して貰えるのだろうか。
ハイジの事をお願いして、殺されたりしないだろうか……
「特殊詐欺なんて、悪い事だっていうのは解ってる。……けど。殆どの人が、洗脳されたり今の現状から抜け出せなかったりしてるんだ。
……時々、セミナーとか集会とかがあって。『これは、世の中の金回りを良くする行為だ』とか、『学校では教えてくれない、人生を豊かにする大切な経験ができるものだ』とか」
「……」
「話を聞いているうちに、そんな気になったりもするけど。……でも、どっかで気付いて、抜け出そうとする人もいて。
だけど。捕まって酷い目に遭ってる人を、目の当たりにしてしまうと……怖くて。抜けたくても抜けられない。
……もう、どうしていいか……解らないんだよ……」
眉間に皺を寄せ、自分の置かれた状況や心情を吐露し始める。
本人には、その自覚がないみたいだけど。
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