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第140話

少しだけ躊躇い、男は覚悟を決めたように息を吐いた。 「……お金、だよ」 「……」 「割りのいいバイト。中学生だとバイト雇ってくれる所、中々ないから」 確かに。 義務教育中の身では、学業優先なのか。 雇ってくれる所は無かった。僕が知る限り。 「先輩のバイク、傷つけちゃって。その修理代は高いし。親にも言えないし……そしたら先輩が、ここを紹介してくれて……」 「……ふぅん」 それ、嵌められたと解ってて乗ったのか。それとも…… 「工藤は……?」 まるで同志を見つけたような瞳を向けられる。学校では、軽蔑した目でしか僕を見ていない癖に。 「……エッチな事」 わざとストレートに言ってやる。 今になって仲間意識持たれて、お友達ごっこなんてごめんだ。 「……えっ、」 予想通り、驚いた顔を僕に見せる。 「そ、それ……売春……って事……?」 「……違うよ」 「彼氏……いたよね。よく校門の前まで送り迎えしてた……」 懐かしい話を持ち出されて、つい失笑してしまった。 ……あー、平和。 これが『普通』なんだな。 僕から見たら『甘ちゃん』みたいに感じるけど。 悪意ある世界を知らない。 親に、無条件に愛されて育ったんだろう。 僕の様な無意味な苦労なんか一切してなくて、無駄のない、必然な挫折と成長を繰り返して、絶対的な居場所があって、時に手を差し伸べられて…… そうやってこの先も、人生をまっとうして生きていくんだろうな。 「……あの人は、僕の事を縛ってた……ただの元同居人だよ」 「し、縛ってた……って……」 彼が再び僕の手首に視線を合わせる。 ……あー、もういいや。 話すのが面倒臭くなってきた。 僕の事を知った所で、この人は僕の人生に交わらない類の人間なんだから。 「……さっき、売春じゃないって言ったけどさ…… 売春じゃなかったら、どうして、そんな……そんな事……」 遠慮がちに、遠慮なく聞いてくる。 僕は軽く溜め息をつき、彼に視線を向けた。 「どうしてそんな事聞くの?」 「お、脅されてる……とかだったら……」 「だったら……?」 「……」 「助けてくれるの?」 ……助けられない癖に。

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