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第139話
パタンとドアが閉まる。
掴み所のない嫌味な奴が出て行くと、途端に空気が変わり、静けさに包まれる。
「……」
でも、この裏社会に触れた事でひとつ解った事がある。
……それは、僕のしてきた苦労は、鼻クソ程度のちっぽけなものなんだって事──
″甘ちゃんが嫌ぇっていうか、苦手っていうか…″
初めてハイジに会った時『大事に育てられた様な面してる』って言われた。
……きっと、そうなんだろう。
それぞれの境遇に優劣を付けるのは可笑しな話だけれど、見る人によって、僕は『甘ちゃん』に過ぎない。
特に、ハイジから見れば──
ずっと座りっぱなしだった事も相まって、腰も尻も痛くて横になる。
……どうせ今夜、散々いたぶられるんだ。少しくらい休んだって構わないよね。
そんな言い訳じみた事を、心の中で呟く。
「……工藤」
その時突然声を掛けられ、ピクッと体が跳ねた。
……そうだ。まだ部屋に一人残ってたんだっけ……
「何か、飲む……?」
「……、うん……」
体を起こさずに答えれば、足音が遠退く。
暫くして足音が近付き体を起こそうとすれば、目の前にペットボトルが差し出された。
「これなら、横になったままでも飲めるよ」
飲み口に専用のストローが取り付けられていて、横になったまま飲んでも溢れないようになっていた。
「……」
「それ……さ……」
無言で受け取れば、当たり前のように男がベッド端……僕の頭側へと腰を掛ける。
「……あ、いや……」
僕の首元に落とされた後、直ぐに逸らされる視線。
それは学校で受ける好奇のものではないものの、僕は片手でそっと覆い隠した。
「痛くない、か……?」
「……」
また盗み見るようにチラリと視線を向けられる。その先は、僕の手首──
「……別に。平気」
「そ、っか……」
「……」
「……その首輪だけど……もしかして……」
「うん……」
「どうして、そんな……」
遠慮がちに、無遠慮に質問してくる。
まだ僕は、本当の所、こいつが同級生なのかも解っていない。
「あんたは……?
僕と同じ学校の生徒なんでしょ?
……真面目そうな顔してんのに、どうしてこんな所にいるの?」
僕も遠慮せず、無遠慮に聞いた。
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