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第141話
パタン、とドアが閉まる。
掴み所のない嫌味な奴が出て行くと、途端に辺りが静けさに包まれる。
「……」
この裏社会に触れた事で、ひとつ解った事がある。
それは……今まで僕のしてきた苦労は、人に踏み付けられる蟻んこの如く、とてもちっぽけなものなんだって事──
『甘ちゃんが嫌ぇっつーか。……苦手なんだよ』
初めてハイジに会った時『大事に育てられた、お姫様みてェな面してる』って言われた。
……きっと、そうなんだろう。
それぞれの境遇に優劣を付けるのは可笑しな話だけれど。見る人によって、僕は『甘ちゃん』に過ぎない。
ハイジから見たら、特に──
ずっと座りっぱなしだった事も相まって、腰も尻も痛くて横になる。
……どうせ今夜、散々いたぶられるんだ。少しくらい身体を休めたって、構わないよね。
そんな言い訳じみた事を、心の中で呟く。
「……工藤」
と、突然声を掛けられ、ビクンッと身体が跳ねる。
……そうだ。まだ部屋に、一人残ってたんだっけ……
「何か、飲むか?」
「……うん……」
身体を起こさずに答えれば、足音が遠退く。
暫くして足音が近付き、身体を起こそうとすれば、目の前にペットボトルが差し出された。
「これなら、横になったままでも飲めるよ」
飲み口に専用のキャップストローが取り付けられ、横になったまま飲んでも溢れないようになっていた。
「……」
「それ……さ……」
無言で受け取れば、当たり前のように男がベッド端──僕の頭側へと腰を掛ける。
「……あ、いや……」
僕の首元に落とされた後、直ぐに逸らされる視線。
それは、学校で受ける好奇の眼差しではないものの、片手でそっと覆い隠す。
「痛くない、か……?」
「……」
また盗み見るような視線──その先は、僕の手首に。
「……別に。平気」
「そ、っか……」
「……」
「……その首輪だけど……もしかして……」
「うん……」
「どうして、そんな……」
遠慮がちながら、無遠慮に質問してくる。
まだ僕は、本当の所、こいつが同級生なのかも解っていない。
「あんたは……?
僕と同じ学校の生徒なんでしょ?
……真面目そうな顔してんのに、どうしてこんな所にいるの?」
だから僕も遠慮せず、無遠慮に聞いてやる。
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