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第145話

いいよ、別に。 期待なんかしてないから。 ……あんたと仲良くするつもりもないし、答えてやるよ。 「迫ってなんか、ない」 「………だよなぁ」 やっぱり……とばかりに男が溜め息をつく。 「なんかさぁ。あの事件、うやむやになったまま報道が下火になっただろ? 退院する様子を、集まった報道陣の前でアゲハ王子が一言、『お騒がせしました』って。深々と頭下げたのをピークにさ」 「……」 「傷害扱いで終わり、みたいな感じになったけど。ネットじゃあ今でも炎上しててさ。結構色んな憶測が飛び交ってんだよね。 弟の工藤が、樫井秀孝事件のせいで男に目覚めちゃって、兄のアゲハ王子に迫ったって説が有力な中……王子の熱狂的なファンが、住所を調べ上げて待ち伏せして、揉み合った末に切りつけた……って説も浮上しててさ」 ……ふうん。 「でも……その中で気になるネット記事があって。フリージャーナリストが書いたやつなんだけど。 ……工藤とアゲハ王子が、実はデキてて…… あの時二人は、裸で、……その……性交してた、って……」 「……」 フリージャーナリスト。 ……まさか。最後に学校へ行った日に、ぴったりとくっついてきた、あのハイエナみたいな奴……? 『……兄弟で、ナニ……してたのかな……?』 思い返しただけで、憤りと拒絶感の入り混じった感情に支配される。 ぶるっと身体が震え、身を縮める。 腕をクロスして二の腕を摑み、自身を慰めるように抱き締める。 「……それ、さ。 もしかして、………アゲハ王子に、強要されてた……のか……?」 至極真剣な顔が、上から覗く。 余りに真面目に推理しながら、見当違いな事を言い出すから、思わず吹き出してしまった。 「……アゲハがそんな極悪非道な事、する訳ないじゃない……」 寝返りを打って、男の視線から逃れる。 ばかばかしい憶測に、溜め息をつきながら。 「……じゃあ、一体何があったんだよ」 ああ、もう。 図々しいのにも程がある。

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