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第143話

いいよ、別に。 期待なんかしてないから。 ……あんたと仲良くするつもりもない。 「迫ってなんか、ないよ……」 「……だよな」 やっぱり……とばかりに男がホッと息を吐く。 「なんかさぁ、あの事件……うやむやになったまま報道が下火になっただろ……? 退院する様子を、集まった報道陣の前でアゲハ王子が一言、『お騒がせしました』って。深々と頭下げたのをピークに」 「……」 「傷害扱いで終わり。みたいになったけど。ネットじゃあ今でも過熱しててさ。結構色んな憶測が飛び交ってんだよね。 弟の工藤が、樫井秀孝事件のせいで男に目覚めちゃって、兄のアゲハ王子に迫ったって説が有力な中………王子の熱狂的なファンが、住所調べて待ち伏せして、揉み合った末に切りつけた……って説も浮上してさ」 ……ふうん。 「でも……その中で気になるネット記事があって。フリージャーナリストが書いたやつなんだけど。 ……工藤とアゲハ王子が、実はデキてて…… あの時二人は、裸で、……その……性交してた、って……」 「……」 フリージャーナリスト。 ……まさか、最後に学校行った日に、ぴったりとくっついてきた、あのハイエナみたいな奴……? ″……兄弟で、ナニ……してたのかな……?″ 思い返すだけで、憤りと拒絶感の入り混じった感情に支配される。 ぶるっと体が震え、身を縮める。 腕をクロスして二の腕を摑み、自身を慰めるように抱き締めた。 「……それ、さ。 もしかして、………アゲハ王子に、強要されてた……のか……?」 至極真剣な顔が、上から覗く。 余りに真面目に推理しながら見当違いな事を言い出すから、思わず吹き出してしまった。 「……アゲハがそんな極悪非道な事、する訳ないじゃない……」 寝返りを打って、男の視線から逃れる。 ばかばかしい憶測に、溜め息をつきながら。 「……じゃあ、何があったんだよ」 ああ、もう。 図々しいのにも程がある。

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