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第146話

それに。さっきからひっきりなしにべらべらと喋ってくる。 どうせ煩いなら──『アゲハ王子の弟』だからと、僕に群がってキャアキャアと騒いでいた女子達の方がまだマシだ。 「ちゃんと話さなきゃ、解んないだろ? 学校の奴らも、本当の工藤を知らないだけで……ただ誤解してるだけだって」 「……」 「なんなら俺が、クラスの奴らに話して、解って貰えるように説得するからさ。教えてくれよ」 「……」 「なぁ、……工藤」 ベッドに片手をつき、僕を上から覗き込んでくる。 「……」 何なんだ、この厚かましさは。 熱血、ってやつか? 青春ドラマとかによくある、曲がった事が大嫌いな優等生。生徒会長。体育会系。──正義感の強いヒーロー。 爽やかな笑顔と真っ直ぐな信念を振りかざし、それが正しい事であると信じて疑わない。 その正義感さえあれば、グイグイと必要以上に近付いても……例え相手のパーソナルスペースを土足で踏み荒らしていても、許されるとでも思っているんだろう。 「……何で、そんなに知りたいの……?」 「……」 瞳だけを奴に向け、薄く笑う。 そうすれば、彼は少し驚いた顔をしてみせた。 「僕の事、そんなに好き……?」 ゆっくりと上体を起こす。 少し首を傾げ、正座を崩したように座って腰を捩る。 脇腹、腰、足にかけてのヴィーナスライン。上目遣いで潤んだ瞳を奴に向け、色情を駆り立てるような視線を送ってみせる。 「……もしかして、僕を抱いてみたい……とか?」 コイツの化けの皮を剥がしてやりたい、という気持ちでいっぱいだった。 なのに……気付いたら、挑発していた。 あの時と同じ。 ホストクラブのバックヤードで、下っ端ホストに襲われそうになった時の……あの感じ── 妖しげに微笑んで見せれば、男は目を白黒とさせた。 左手を伸ばし、男の顎裏に指先を掛けクイッと持ち上げる。 「……ねぇ、どうなの……?」 「……」 「本当の事言ってくれなくちゃ、解んない……」 熱っぽい視線を向け、唇を少しだけ尖らせる。 そしてわざとらしく、男の顔にフッ、と強めに息を吹きかける。

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