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第299話
総括──それは、あさま山荘事件を起こす前の連合赤軍が山岳ベースキャンプに潜伏していた際、メンバーの気の緩みを正す為に行った、指導という名の集団リンチの事。
気絶した後に目を覚ませば共産主義の力を得て生まれ変わるという、最高幹部の身勝手な思想によって生まれたもので、あさま山荘事件後、潜伏先だったベースキャンプから次々と総括で亡くなったメンバーの遺体が見つかり、当時、世間を震撼させた。
『箱長の菊地さんが、この総括をえらく気に入ってて。定期的にやるんだよ。ここで』
『……』
『俺は先月頭に、金儲けできるって聞いてここに来たんだけどさ。その間に行われた総括は、二回』
好意的な笑顔を向けながらも、周りに気を張っているのか……五十嵐に顔を寄せ、コソコソと話し出す。
『──正に、地獄絵図だ。
手前 は手を汚さず、実行するのはターゲット以外のここにいるメンバー全員。少しでも手加減しようものなら、そいつも巻き添え食ってターゲットにされる。だから全員、本気でやるしかないんだ。
その罪悪感と恐怖の蓄積なんだろうな。元からいた奴らはみんな、生気を失ってる。正に、生きる屍……箱長のいいマリオットって所だ』
『………そんな。抜けようとは、思わないんですか?』
『抜ける? ハハ、……ここに来て無事に抜けられる奴なんているかよ。当然、逃げるのもな。直ぐ捕まるのがオチだ。
それに、例え上手く逃げ切れたとしても、コイツらには帰る場所がない。俺をここに紹介した奴の話じゃ、家にも学校にも居場所がなく、家出して街を屯してたらしいからな。コイツらが消えた所で誰も捜索なんかしたりしねぇ。必要とされてねぇ人間だからな。
……だから、ここを逃げ切れたとしても、その先がないんだ』
「……」
遠退いてく……
僕の知ってる寛司が、壊されていく……
いつだって、僕を愛おしんで……
穏やかで、優しさの滲む瞳の色をしていた……
寛司に関わった人達もみんな、寛司の事を良く思っていた。
忌まわしい事件の罪を一人で背負い込んで……全ての悪を全部引き受けて、苦しんでるようにも見えた。
「……」
指先が、震える。
寒気が……止まらない。
過去に起こした事件を後悔していた筈なのに、また同じ事を繰り返すなんて……
おかしい……
そんな事あるわけ無いって思いたいのに……五十嵐が言ってた、掛け子達の異様な雰囲気なら、僕もこの目で確かに見た。
……ねぇ、寛司……
統括なんて……本当にしてたの……?
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