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第421話
──トスッッ、
逃げる間もなく、軽々床に倒される身体。
肩甲骨辺りと後頭部を強く打ち、痛みが走る。
じん……と痺れる背中。脳内。
我先にと、ニタついた男の醜い顔が視界いっぱいに映り、目の前の景色がぐらりと揺れる。
角膜の内側に現れる、無数の砂嵐。降り出した雨粒がアスファルトの色を濃くしていくかの如く、点と点が重なり合い、灰色のフィルターが掛けられていく。
その中で微かに見えたのは──辺りに散乱した、畳み終えたばかりの洗濯物たち。
「──!」
その瞬間──否応なく引き出される、忌まわしいあの日の記憶。
薄暗くヤニ臭い溜まり場。辺りに散らばる、男達の脱ぎ捨てた服や汚れた下着。
無数に伸びる、手、手、手───
その手が僕の服を剥ぎ取り、肩を、腕を、足を捕らえて押さえ……床に縫い付けていく。
塞がれる口。その手の主が僕の身体に跨がり、欲望に歪んだ顔を覗かせる。
「………はぁ、ハァ……堪んねぇ……凄ぇ堪んねぇ匂いだ………ハァ……ハァ……」
耳障りな声。厭らしい息遣い。
その汚らわしい唇が不自由な僕の首筋に吸い付き、ビチャビチャと嫌な音を立てる。
誰のか解らない、数々の手指が芋虫のように蠢き──僕の太腿を、脇腹を、乳首を、下肢の中心を、執拗なまでに貪る。
───ぃや、だ……
ぞわぞわと迫り上がる悪寒。
内側から壊され、波紋のように広がっていく絶望。
抵抗したくとも、身体は思うように動かせず……情けない事に、ただぶるぶると大きく震えているだけ──
………いや、……ゃだっ……
ハイジ──助けて、ハイジ……
あの頃の恐怖が、痛みが、感情が蘇り、フラッシュバックを引き起こす。
びりびりと痺れる指先──これが現実じゃない事くらい、解ってる。
解ってる。
それでも……僅かな望みを託し、僕の真上に射し込まれる一筋の光を求め、必死に手を伸ばす。
『ハイジは、もうチーム には戻って来ねえんだよ』
『残念だったな、姫』
ギラつかせた眼を近付ける太一。
そんな──容赦なく心を打ち砕かれ、小さな希望さえも奪われ、絶望の奥底に沈められていく。
人形のようにだらんとした僕の下肢を押し広げ、男達が代わる代わる犯し───
「……」
目尻から滑り落ちる、一筋の涙。
──ぐちゅ、ぐちゅ、
結局、何にも変わらない。
変わらないんだ……あの時も、今も……
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