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第457話
「……」
照明の光に溶け込み、キラキラと煌めく蜂蜜色の髪。
僕を優しく見つめる蒼眼。
冷たく纏う空気が、僕に心地良い緊張感と高揚感を与えてくれる。
ドクン、ドクン、ドクン……
何だろう……この感覚。
寒い訳ではないのに、指先が震えて止まらない。
だけど、胸の鼓動はどんどん強くなって……顔が熱くなっていく。
「……どうしたの?」
「え……」
「さっきからずっと、俺を見てるから」
言われて初めて気付く。
かぁ…っと熱くなる両頬。慌てて視線を外し目を伏せれば、その様子に屋久がクスッと微笑む。
「余り、口に合わなかったかな?」
「……」
「それとも、俺の顔に何か付いてる?」
覗うように視線を上げ、首を小さく横に振れば、屋久が続けて揶揄うような質問をする。
テーブルの真ん中に置かれたバスケット。その中にある白いハイジパンに手を伸ばした屋久が、小さく千切って手前のシチューを掬う。
「………そうじゃ、なくて……」
「て?」
「蕾と基泰は、どうしたのかなって……」
「──ああ」
掬ったパンを口に運んだ屋久が、納得したような反応をして見せる。
「二人は多分、暫く帰ってこないよ」
「……え」
屋久の返しに、驚きを隠せない。
僕の反応を気にも止めず、受け皿に持っていたパンを置くと、スプーンに持ち替える。
「どうやら太一 を逃がしてしまったらしいからね。……姫が、こんなに酷い目に遭ったっていうのに」
「……」
「よくよく聞けば、太一はハイジのチームに居たそうじゃないか。……去年、姫を集団レイプした主犯格だって」
「……」
淡々と語るその口調に、何の感情も感じられない。……だけど、屋久の話す声色を聞いてるだけで、怖い程に心が震える。
「そんな奴を、野放しにはできないからね。必ず捕まえて、始末するようお願いしたんだよ」
「………え」
向けられたのは、鋭く尖った蒼眼。
ピリッとした空気を肌で感じ、肩や指先が細かく震える。
「……」
始末──
また、僕のせいで……誰かが……
「別に、姫が気に病む事はない。これは太一にとっての『因果応報』だからね」
「……」
「太一は馬鹿じゃない。こうなる未来を想定しながら、そのリスクを背負ってまで姫を傷つけたんだから」
カチャ……
シチュー皿の底に、スプーンのぶつかる音が鳴り響く。
「……」
なんだろう……
何故だか解らないけど……呼吸まで震えて……
下瞼に、涙が滲んで……
「………怖かったね、姫」
僅かながら、感情が伴った声。
瞼を伏せた瞬間……ポロポロッと涙が零れ落ちる。
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