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第456話 **

××× ポチャン…… 浴室に響く水音。 濡れた前髪の毛先から、滴り落ちる水滴。それが、浴槽の水面に綺麗な波紋を作り、大きく広がっていく。 その行き先には……誰もいない。 いつもは笑顔を浮かべる蕾が、そこにいるのに。 「……」 ……蕾…… 今頃、何処でどうしてるかな…… 窮屈だと思っていた浴槽に、足を伸ばせるスペースがある事が……何だか淋しい。 小さく膝を折り畳み、背中を丸める。 今までずっと、一人でいいと思っていた。 誰も僕を見ない。近付こうとしない。解っても貰えない。 声を上げた所で、誰にも届かない。 それならいっそ、誤解されたままでいいから……僕に構わないで欲しかった。 優しい顔して僕に近付いてくる奴は、アゲハに近付く為の踏み台にするような人達ばかりで。とても信用できず、自ら突っぱねて遠ざけていた。 でも……今は違う。 蕾とここで再会してから、初めて自ら関わりを持とうとしたし……蕾の内情を知って、僕が守りたいと思った。 接する度に笑顔が戻り、人間らしく生まれ変わっていく蕾の姿を見るのが嬉しくて。何だか解らない……心の中に花が咲いたように、穏やかで温かな気持ちになれた。 だけと── ピチョン、ポチョン…… 二つの波紋が、水面を僅かに揺らしながら交差し、走り抜けていく。 その情景は、先日男達に襲われた光景を容易に思い出させた。 「……」 迫り来る男達を必死で止めようとしてくれた。豹変した『蕾』にさえも……自ら腕に噛み付いて、止めようとしてくれた。 そんな蕾を、失いたくない。 もし誤解されて、何処かで酷い目に遭っているのだとしたら……僕が屋久に、ちゃんと伝えなくちゃ。 蕾は、僕を助けようとしてくれたんだって。 脱衣所に用意されていた部屋着に腕を通す。滑らかで肌触りが良く光沢のあるそれは、きっと凄く高いものなんだろう。 備え付けのフェイスタオルで髪を軽く拭き、ふと鏡に映る僕を見れば……やけに窶れた顔をしていた。 部屋に戻ると、ふわりと美味しそうな匂いがする。 「一緒に食事でもしようか」 カウンターでドリンクを用意する屋久が、僕に微笑みかける。 ダイニングテーブルには、二人分の食事。シンプルに、パンとシチュー。 デリバリーなんだろう。ここで調理した様子は見られない。 「座って」 「……」 グラスを二つ持ち、テーブルへと向かう屋久の指示に従い、足先を向けた。

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