457 / 558
第457話
「その為なら俺は、傷付いても構わない。多くの他人を傷つけたっていい……この身を盾にして、信じた仲間を守るよ」
「……」
トクン……トクン……
僕をじっと見下ろす、ビー玉のような蒼眼。
屋久の手が、僕の髪をそっと撫でる。
冷たい指先。そのせいかは解らないけど、ぶるっと身体が小さく震える。
「だから姫──この先決して、俺を裏切ったりしないでくれよ」
ギシ……
もう片方の手が、僕の顔の隣に置かれ……さらさらと金色の横髪を肩から溢しながら、屋久の端整な顔が近付く。
「……うん」
「いい子だ」
そっと搔き上げられた前髪。その下から覗いた僕の額に、優しく屋久の熱が落とされる。
──バンッ、
突然鳴り響く、大きな音。
一変する空気。
その一瞬で、シャボン玉が弾けたかのように、ぱちんと目が冴える。
驚いて音のあった方を見れば、蕾の寝床でもあるソファの前で、蓋を閉めたキャリーバッグを起こす、Mの姿が。
「……」
その瞳は何処か冷めていて──だけど、纏う雰囲気はピリピリとしていて……
「M」
「帰る」
屋久の呼びかけにぴしゃりと言い放つ
と、キャリーバッグをゴロゴロと転がし、前のめりで足早に去っていく。
「あのっ、」
Mの手がドアノブに掛かった瞬間、思い切って声を掛ける。
「………ありがとう」
「礼ならいらない」
無感情な声。無関心な態度。
僅かに振り返ったMが、僕を尻目に一蹴する。
「私はあんたの事、嫌いだから──」
ともだちにシェアしよう!

