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第454話
『皮肉な事にね』───屋久の表情から、そう付け加えられたような気がした。
「その基泰のお陰で、新生スネイク『琥武羅 』を結成し……こうして再出発する事が出来たんだよ」
「……」
何もかもを失い、孤独と絶望に陥った時……手を差し伸べて、変わらず傍にいてくれた──それは、かつて屋久が基泰を陥れる為にした手法そのもの。
だけと、表裏のない基泰だったからこそ……気を許したのかもしれない。
いつかの夜──食事会での二人の会話は、羨ましい程にとても楽しそうに見えた。
「俺は、親父や桜井とは違う。血の繫がりなんて関係ない。
大切なのは、俺がソイツを信頼できるかどうか……だよ」
「……」
「俺を認めてくれる『誰か』──俺がここに存在してもいいと、証明してくれる大切な輩がいれば、それでいい」
目を細め、口端を緩く持ち上げた屋久の表情が、温かくて柔らかなものに変わる。
僕を包み込む様な、優しい眼差し。
「……」
トクン……
瞳の焦点が合った瞬間、痛い程に切ない感情が流れ込み、僕の胸を大きく打つ。
それは……僕も、同じだよ。
そう答えるように、屋久をじっと見つめる。
僕も、ずっと欲しかった。
存在するだけで僕を認めてくれる、誰か。
僕を必要とし、温かく受け入れてくれる……陽だまりの様な、心地良い居場所。
『もう誰かを傷つけたり、傷つけられたりする事はないから。……ここに居る限りはね』──ここに連れて来られたばかりの頃、屋久にそう言われた言葉。
あの時は、何か企んでるんじゃないかと警戒していたけど……
今なら、あの言葉を素直に受け止められる。
ここは、牢獄なんかじゃない。僕を外部から守ってくれる、箱庭なんだって……
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