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第453話

正に、青天の霹靂。 その場にいたメンバーは勿論、屋久も驚きを隠せない。 深沢──それは、スネイクの元幹部であり、菊地の親友。世間を震撼させた、コンクリ事件の犯人の一人。 少年院で更に箔が付いたのだろう。一見無害そうに感じるが、関わってはいけないと本能が拒否する。 今まで感じた事のない、威圧感。 人を殺めた経験のある基和にも感じなかった、無言の気迫。 「………おい、そりゃどういう──!」 「まんまに決まってんだろ」 胸倉に掴みかかろうとする基泰の手を、深沢が簡単に払い除ける。そして、ショックを受けた屋久の元へと近付くと、その無機質な白眼で見下ろす。 「今まで、よくここまでやってくれたな。……影武者の分際で」 「……!」 物静かに。しかし、圧倒的に発せられる声。 雰囲気からでも解る。──それが、敵意しかない事に。 「──あれだけ組織を大きくしたっていうのに。いとも簡単に、俺を切り捨てた。 俺のやり方に不満を持っていた菊地が、止めさせるよう……前々から桜井に交渉していたらしい」 「……」 寛司は、事件で初恋の人を失ってから……麻薬自体を毛嫌いしていた。 だから、反対するのは解る。でも…… 『いつだって、俺はお前の味方だ』『年の離れた兄貴だと思ってくれていい』──きっと屋久は、桜井の言葉を何処かで信じていたんだろう。 言われた事以上の成果を出し、周りから信頼を得た成功体験から、スネイクでもそれを実現しようとしたんだ。……桜井さんの為にも。 なのに、突然裏切られて。 切り捨てられた。 その時の屋久の気持ちを思うと……胸が、痛い── 「……」 今まで、屋久の本心が全く見えなくて……発せられる言葉や態度が、何処か胡散臭く感じていた。何となく、信用できないって。 でも……それは、今まで裏切られてきたせいなのかもしれない。警戒心を強め、相手を試し、見定めながら心を開いていくタイプの人なのかもしれない。 そう思うと……不思議と屋久の言葉や態度が、嫌なものに感じなくなる。 ずっと感じた事のなかった屋久の心が、不思議と今は近くに感じる。 「絶望したよ。 ……もう、何もかもどうでもいいとさえ思った」 屋久の眼から、光が失われていく。 「でも、そんな俺を救ってくれたのが──基泰だ」

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